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ロビンに黄道十二宮に行くことを伝え、カストールは足早にエントランスへと向かった。
黄道十二宮までの道程も距離も分かっていないが、双子の片割れはいとも容易く行き来している。
恐らく屋敷のすぐ側に移動手段があるのだろう。それならば、まずは屋敷周辺を探索してみよう。外は、初めてだから、怖い。
だが、同時に初めての外に胸が踊っているのも事実。期待と緊張と少しの恐怖。様々な感情を胸に抱き、高まる鼓動を感じながら、前を向く。
大丈夫。もう、全てに怯えていた昔の自分ではない。カストールは外へと続くドアノブに手をかけた。
「──どこに行くんだ?」
不意に響いた、誰かの声。
途端に身体が固まった。
おかしい。
屋敷には、自分と使い魔の黒猫ロビンだけ。
こんな、こんな──殺気を纏わせた低音の声を発する男など、いない。
反射的にマントを翻し、振り返る。心臓辺りがこれまでにないほど拍動していた。短く浅く、呼吸が乱れている。
はっ、はっ、と忙しない自分の呼吸音、拍動が聞こえるだけで、周囲には誰もいない。
「だれ……誰なの……っ!?」
思わず問い掛ける。喉から絞り出した声は、小刻みに震えていた。今までに無い恐怖が、蛇のように身体に巻き付いてくる。
「……ふっ。……誰だって?」
声の主は呆れたように鼻で笑うと、その姿を現した。空中に出現した青黒い炎の渦。
突然の炎の渦に呆気を取られていると、緩慢な動きで何かが出て来た。それは、白い手だった。
白い手は、青い炎の光を受け、歪な存在感を放つ。思わず、カストールは後退する。この場から逃げたかったが、足が竦んでしまい、動けない。
白い手は、見えないはずなのにカストールの方へと掌を向ける。瞬間、勢い良く何かが放たれた。
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