第一章「狂詩曲」──悪魔──

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大悪魔は、上級悪魔の呼び名だ。 悪魔は二種類存在する。 人間の負の感情より生まれ落ちた純粋なる者。つまり、先天的な悪魔。 そして、死の直前、負の感情に蝕まれ支配され、目的を達成するまで衝動的に行動する者。人間からの転生──つまり、後天的な悪魔。 その中でも上級悪魔は、負の感情より生まれた純粋たる者のことを指す。 雑多な感情を多く含む人間からの転生とは違い、上級悪魔は行動全てに迷いが無い。故に、残酷で凶暴性も桁外れ。 そんな上級悪魔が、何故こんな所に現れたというのか。震えるカストールを余所に、ルイは見据えてくる。 何かを疑るように、カストールの行動や言動を一つも零さないように瞬きすることなく赤い双眸が射抜いてくる。 まるで心中を見透かそうとしているような行動にたじろいだ。その時、突然ルイから笑顔が消えた。 瞬間、彼の周囲に鈍く光る藍緑色の刃が現れた。緩やかに空中を旋回しながら、カストールに切先を向けている。 「……ようやく見つけたぞ。──クックロビン」 薄い唇から紡がれたのは、強圧的な重く低い声。何の感情が含まれているかなど、容易に想像できる。 だが、それよりも。 目の前の男は、今何と言った? 「クック、ロビン……っ?」 思い出すのは、書庫室で見た新聞の記事。謎の存在クックロビン。その姿を見た者または触れた者は、緩やかだが確実に正気を失うという。 今、アストラを騒がせている元凶の呼称を、この男は自分に向かって言い放った。恐怖で正常に働かない脳は、それだけで混乱する。 「ま、待って! ぼくはクックロビンじゃないよ! ぼ、ぼくは……っ!」 「ピーピーうるせえな。……隠しても無駄だ。俺様はお前の正体を知っている」 空中を旋回する刃を掴み、カストールに向ける。 「……そんな人畜無害そうなガキンチョになってても、お見通しなんだよ」 悪魔から放たれる憎悪と殺意を乗せて鋭利に光る刃に、カストールは圧倒される。久方振りに感じる死への恐怖。 心臓を直接鷲掴みにされたような嘔気を感じ、胸付近を押さえる。呼吸が苦しい。 徐々にだが手先が痺れ始め、震えが止まらなくなった。何故自分がクックロビンに間違えられているのか。 星神の配下を狙った黒化事件の犯人であるクックロビンは、全身黒い姿で血のような眼、常に笑顔を柔らかく浮かべていたという目撃証言がある。 ──ぼくと全然違うじゃんか……っ!? カストールは確かに黒髪ではある。だが、それは右半分だけだ。残りの左半分は旋毛を境目に色素のない雪のような白。 目の色だって違う。 右目は瑠璃色、左目は菫色だ。 そもそも星神のカストールに、悪魔の特徴である赤い目がある訳がない。どこにもクックロビンと決め付ける要因がないではないか。
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