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これで逃げられると希望を抱いたのも束の間。ガチャン。扉が音を立てる。──開かなかった。
何度回しても、ガチャガチャと音を鳴らすだけで開けることが出来ない。
回す方向が逆なのか。
いや、そんな間違いはしないよう注意を払っている。
鍵を開けていなかったのか。
そんな訳がない。扉の鍵は意を決して出ようとした時に既に開けてあった。
なのに、何で、何で。
「くっ……あっはは!」
唐突にルイが、心底可笑しそうに嗤う。混乱状態のカストールが緩慢に顔を上げると、楽しそうに嗤う悪魔の姿。
「笑わせるなぁ、クックロビン。まあ、普通ならそう考えるよな。折角背後に外に逃げられる扉があるんだからよ。だから、先手を打たせてもらった」
「先手……っ?」
「ああ、先手さ。もう、この屋敷は俺様の支配下──境界内なんだよ」
「──っ!!」
「あぁ、残念だなぁ。実に残念だ、クックロビン。お前がそんな陳腐な考えしかできないなんてよ」
耳障りな嗤い声が耳を劈く。途端に足が力を失い、床へと崩れ落ちる。既に読まれていたのだ、自分の行動を。
よく考えれば分かることだった。悪魔だって、この扉から侵入したはずなのだから。浅はかな自分の思考に嫌気が差す。
それに、この状況。境界が張られているこの状況は最悪過ぎる。境界──それは星神、天使、悪魔が使える能力の呼び名。
発動者自身の力を増幅し結界としての役割を果たすため、発動さえできれば、これ以上ない程の強力な武器となる。
余程のことがない限り発動者にしか解除できないため、解除は星神でも至難の業。
──境界を解除する方法は確か……っ。
必死で知識を詰め込んだ脳を働かせる。境界解除の主な方法は二つ。発動者自身が境界を解除するか、発動者の集中もしくは意識を奪うこと。
発動者に対抗出来るほどの境界を自身も発動し相殺させるという荒業もあるが、それはあまりに危険過ぎる。
それに、と奥歯を噛み締めた。星神として未熟なカストールは、そもそも境界を発動できない。
魔法も満足に発動できた試しがない。つまり、この状況を打開出来るほどの力がないのだ。
発動者自身──ルイに境界を解除するように仕向けることも出来なければ、ルイの集中や意識を奪うことも出来ない。
──……どうすれば、どうしたら……っ!
絶望的な状況。最早為す術もないカストールに、ルイはふと笑みを湛えた。唐突な柔らかな笑みにカストールは呆ける。
悪魔はくるくると片手で弄んでいた刃を力強く掴み、怯える少年を見遣る。
「さあ、大人しく丁重に──」
双眸が赤く光った。
「──死ね」
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