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「そうかそうか、死にたくねえか。分かったよ。俺様だって悪魔じゃねえ」
冗談でも笑えない。
「そんなに言うんだったら、ゲームをしようじゃねえか。なあ、クックロビン?」
「ゲ、ゲーム……っ?」
「ああ、ゲームだ。お前が──クックロビンじゃないと証明しろ。そうだな、制限時間は五分。その間に証明できたのなら、俺様はお前を殺さねえ」
「……っ」
「そんなに睨むなよ。俺様は約束は守る方だぞ? ……まあ、五分間で証明できなかった場合は、容赦しねえけどな」
瞳孔が開いた目で睨まれれば、容易く身体が硬直する。だが、これは好機なのではないだろうか。
証明しろ、とルイは言った。
クックロビンではなく自分はカストールだ、と彼に証明さえできれば、この現状を打破できるかもしれない。
勿論、ルイが嘘を吐いている可能性も十二分にあるが、真っ直ぐに見据えてくる目からは、騙そうなどと企む輝きは感じ取れなかった。
寧ろ、カストールを試そうとしているような。ルイはくつくつと笑う。
「どうした? 間抜け面に拍車がかかってるぜ? やるかやらないか……どっちだ?ま、俺様はどっちでもいいけど」
「……きゅ、急にそんなこと言われても……」
「うぜえな、はっきりしろ。折角チャンスを与えたのによ。今ここで殺してもいいんだぞ」
「……っぼ、ぼくは……」
「……残念。もう拒否権はない」
カストールから離れたルイは、刃全てを解除した。空中を旋回する刃も、握り締められていた刃も全て消える。
突然の武装解除に驚く間もなく──パチンっ。右手の中指と親指を合わせたルイが、辺りに乾いた音を響かせた。
彼がフィンガースナップをした瞬間、屋敷全体に陰鬱とした澱んだ空気が流れ出す。──境界が完成された。
先程までの雰囲気とは打って変わり、呼吸をするのも憚れる程の圧迫した空気に、本能的に身体が強張った。
「制限時間は五分」
何の感情もない乾いた声が響く。
「それまでにお前がお前である証明をしろ。そうすれば、お前を殺さねえから」
「……っ」
「……鷹を目の前にした鼠のように固まってる場合か? ほら、こうしてる間にも時間は進んでいる。早くしないと俺様に殺されちゃうなあ、クックロビン」
狂気じみた笑顔を浮かべるルイ。彼にとっては本当にゲームなのだろう。簡単に殺すだけではつまらないから、暇潰し程度に弄んでやろう──そんな思考が読み取れる。
だが、カストールだって誇り高き星神。手も足も出ずに殺される訳にはいかない。魔法が満足に使えずとも、五分以内に自分を証明できれば勝機が見えるはず。
カストールはそう信じ、小刻みに震えている身体に鞭を打って走り出した。
ルイはその間にも攻撃してくる素振りもなく、遂に意を決した少年の後ろ姿を一瞥するだけだった。
書庫室に小柄な少年が消えていったのを見据え、ゆっくりと目を伏せる。
「……鬼が出るか蛇が出るか。見極めさせてもらうぜ」
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