1人が本棚に入れています
本棚に追加
途中、書庫室から借りてきた本の山がマントに引っ掛かり崩れ落ちた。
さすがに早く返さねばならない、と思いながらも明日にしようと本の雪崩を無視して扉を開けた。
すると、にゃあ、と可愛らしい声が足元から聞こえてきた。ふと、下を見遣る。
「……?」
黒猫だ。小さな黒猫が足元にちょこんと座っている。全てを見透かすような深紅の瞳が、じっとカストールの左右違う色の瞳を見ていた。
黒猫。黒猫。
呆然と黒猫を見つめていたが、すぐにハッと意識を覚醒させる。
まさか、立ったまま寝ようとしていたのか。いよいよ自分の体質に呆れを覚えた。
まだ寝惚けているのだろうかと思いつつ、しゃがんで黒猫に話し掛けた。
「ロビン、どうしたの?」
にゃあ、と一声。
「遊んでほしいの?」
にゃあ、ともう一声鳴き、ブーツに頬を擦り寄せる。何と愛らしい使い魔だろうか。思わず微笑んでしまう。
「ごめんね、また後で」
そう言うと悲しそうに、にゃあ。
黒猫はふいっと顔を逸らし、毛繕いを始めた。
気紛れなその態度に可愛いなぁ、と微笑み、ポルクスの自室へと向かう。
彼女の部屋は反対側。ブーツの踵をこつこつと小気味良く鳴らしながら、その部屋を目指す。
小花が可愛らしく彩られたリースの飾られた扉。その向こうがポルクスの部屋だ。何度かリズム良く木製の扉をノックする。
「ポルクス、いる?」
応答はない。
再びノック。
「……ポルクス?」
──いないのかな?
いつもなら間髪入れずに扉が開かれ、自分によく似た顔の少女が満面の笑みで飛び付いてくるのだが、今日はそれがない。
少し憚られるが、一応誰もいないことを確認するため、カストールは扉を開けた。
軋みながら開く扉。だが、その向こうには誰もいなかった。しんっと無音が耳を突く部屋に恐る恐る入る。
天真爛漫な家主がいないだけで、こうも不穏な空間へと変貌するものか。
いつも明るい部屋は、照明が消えているのもあって薄暗く背筋を撫でる寒気がした。
「……いない。……どこいったのかな?」
──……一階にいるのかな?
自室にいないということは、一階で食事の準備等をしているのだろう。カストールは部屋を後にしようと踵を返す。
その時だった。扉近くの机から本が二冊、何の前触れもなく音を立てて落下した。びくっと体が思わず反応する。
本が落下した方を見る。
落下したのは、どうやら赤い表紙の日記帳と青い表紙の絵本。
赤い表紙の日記帳は、ポルクスが毎日欠かさずにその日の出来事を綴っているノートだ。何故落ちたのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!