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「……出掛けるだなんて、言ってなかったけどな……」
外出自体は珍しいことではない。だが、自分に何も言わずに出掛けることは、今まで一度もなかった。
変に、胸騒ぎがした。
胸に生まれた違和感を払い除け、一度紅茶を飲んで落ち着こうとリビングに再び戻る。
すると、先程は気が付かなかった物がテーブルにあるのを見つけた。
それは、手紙だった。
羊皮紙で書かれたそれを手に取り、可愛らしい丸文字を読む。
──ちょっと出掛けてくる。カストールは家でお留守番ね♪ ポルクスより。
彼女はどうやら、外出しているようだ。
恐らく、カストールがすやすやと寝ていたから、起こさないように手紙を残したのだろう。
漸く腑に落ちた。
「……そっか。出掛けてるんだね。……外、綺麗なんだろうなぁ……」
まだ見ぬ外への渇望が湧き上がる。だが、彼女との約束を思い出し、振り払うように首を振った。
外に出てはいけない。
それがポルクスとの約束。
魔法を上手く扱えなければ、外では命の危険がある。まだ上手く扱えないカストールにとっては、外に行くなど夢のまた夢。
まだまだ未熟だ。一刻も早く、立派な一人前の星神にならなければ。そう自分を奮い立たせ、手紙をポケットに折り畳んで入れた。
「ポルクスが帰ってくるまで、書庫室で勉強しよう。……早く、立派な星神……に、ならなきゃ」
星神、という単語に詰まりながらも、鼓舞するかのようにポツリと呟く。そして、リビングに隣接している書庫室へと足を向けた。
書庫室へ続く扉を開け、丁寧に並べられた大量の本の中から何冊か取り出し、部屋にある机に置いた。
まずは、基本から振り返ろうと『アストラ』という分厚い本から開く。ずらっと星のような文字が並んでいる。
──アストラとは、人間界とは別次元に存在する神々の世界の名である。
常に光り輝く星々が瞬き、淡い光に包まれた世界であり、神々はそこで暮らしている。人間界の秩序などを調節する場所で、神々により司るものが違う。
……暫く読み進め、ふうと一息吐いた。
集中したら瞬きするのも忘れてしまうため、目が乾燥して少し痛い。
数分目を休めた後、今度は別の本を手に取る。『星神』という題名を指でなぞり、埃っぽい表紙を開いた。
──星神とは、この世界アストラに住まう神々の名称。
最高神ゼウスを筆頭に、黄道十二門と呼ばれる十二の星神達が人間界の秩序を守る役割をしている。
黄道十二門の星神は、それぞれ統轄するものが異なり、自身の住まう星座宮にて人間界を見守っている。
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