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『──謎の存在クックロビンが現る。
この数十年アストラを騒がせている謎の存在──クックロビンが再び現れた。
その姿を見た者、または触れた者は、たちまち精神が触れ、謎の病に屈する。
症状としては、全身に黒い痣──黒化痕が現れる。黒化痕は完全な悪魔となった者に現れる特徴的な痣である。
人間が悪魔へと堕ちる直前、薔薇と茨を模した黒い痣が生まれ、茨が全身を覆い尽くす時、悪魔へと転生する。
故にクックロビンを見た、または触れた者に黒化痕が現れるのは、悪魔に近しい存在になっていると考えられる。
神々はこの現象を“黒化”と呼んだ。黒化は、ゆっくりだが確実に精神が蝕まれていき、やがて正気を失い、己の最も強い欲に抗えなくなって見境が無くなってしまう。
クックロビンを目撃した者は正気を失ってしまうため、正確な姿は確認されていない。
唯一正気をまだ保っている者の証言では、全身黒い姿で血のような眼、常に笑顔を柔らかく浮かべていたとのこと。
半狂乱者の証言であるため、本当の姿であるのか確かではないが、悪魔の特徴である血のような眼が確認されているので、犯人は悪魔とみて間違いないだろう。
被害者はどれも黄道十二門の星神の配下であった。星神に恨みを持つ悪魔の仕業とみて、黄道十二門はクックロビンを追っている。事件が解決することを願うのみだ』
読み終わった新聞を折り畳む。
この記事は、ポルクスが最近愚痴を零していた事件──クックロビン事件の詳細が書かれているようだ。
「ポルクスが言ってた事件……。ポルクス……怖いって言ってたな……」
相変わらずバクバクと心臓のあるだろう部分が早鐘を打つ。
「ぼくも……怖いな……」
この鼓動を恐怖によるものだと片付け、カストールはぽそっと呟いた。
ふと、ポルクスのことが心配になる。結構な時間を勉強に費やしたが、彼女が帰ってくる気配が未だにない。
──こんなに留守にすることなんてなかったのに……どこに行ってるんだろう……?
胸の内で疑問を浮かべる。その時。エントランスから、扉の開閉音が聞こえてきた。
この音が聞こえてきたということは、待ちに待った双子の片割れが帰ってきたということ。
しゃがんで新聞を読んでいたカストールは、顔を上げ、エントランスに続く扉を見る。
「良かった……無事に帰ってきた」
何故か安堵。恐らく先程まで読んでいた記事のせいだ。いつも以上に心配してしまったようで、身体に余計な力が入っていたらしい。
肩を撫で下ろした。そして、帰ってきた彼女に「おかえりなさい」を言うため、足早にエントランスへと赴く。
「ポルクス、おかえりな──……あれ? ……いない……?」
意気揚々と扉を開けたカストールが見たのは、無人のエントランスだった。確かに外に続く扉が開いた音だったのに。
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