金庫破りのクリスマス

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 俺は小娘と籍を入れ、式は挙げずに新婚旅行で沖縄に行った。ボスとのスリリングな日々に比べてしまうと旅行は退屈で、沖縄の酒が美味かったことしか記憶に残っていない。俺はこの結婚が長くは続かないだろうと予想した。  帰ってきた俺が継いだ組織は、あっという間に衰退した。そもそも協調性皆無な俺には他人を束ねる資質なんぞ持ち合わせていない。結果それで良かったのかもしれない。肥大化した窃盗集団のビジネスと胡散臭い宗教団体の金儲けとの差異は無い。昔の職業別電話帳とトマス・ピンチョン「重力の虹」が同じく情報量の多い分厚い紙本に過ぎないと喩える暴言が罷り通る白痴な新世界に置いては。  俺は誰かの密告(チンコロ)で捕まった。執行猶予は付かなかったが、散々やらかしてきた膨大な完全犯罪の証拠は見つからず、誰かが寄越してくれた優秀な弁護士のお陰で軽微な罪での収監となった。 「お腹の赤ちゃんの為に、いつまでも待ってる」と言って泣いた小娘が困らないように、財産の大部分を渡した。
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