金庫破りのクリスマス

12/16
前へ
/16ページ
次へ
 とりあえず熱い風呂に浸かってからビールでも飲もうと家に帰った。鍵が合わず些か不審に感じたが、窓のカーテンの隙間から部屋を覗くと見慣れた家具が並んでいて間違いなく我が家だった。呼鈴への応対がないので、経験豊富な俺は破鍵することなく簡単に玄関扉を開けた。自宅をピッキングするのは不思議な気分だった。  探しても妻の姿は見当たらず、充てがった子供部屋には買った筈のベビーベッドすら無かった。此処に住んでいないのかと考えたが、冷蔵庫には生ハムやオリーブやらのオードブルが入っていて、焼かれていない丸鶏や冷えたビールが入っていた。ダイニングテーブルの上には皮が剥かれていない豪華な果物とナイフの乗った皿や大きなケーキの箱もあった。出所の祝いの御馳走を用意してくれているのに何故に連絡を無視しているんだろうか。サプライズにしては面倒臭い。  小さなツリーが飾られていて今日がクリスマスイブだと思い出した。とりあえず風呂を浴びてビールを飲んで家族の帰りを待った。酒をウイスキーに変える為に地下室の酒蔵に行ったら、俺のコレクションが殆ど消えていた。ポツンと残っていたのは新婚旅行で買った沖縄のハブ酒だけだった。俺は唖然としながらその瓶を抱えて部屋に戻った。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加