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濡れた手の赤を確認しようと掌を離し見つめたら、それは透明な涙だった。どうやらさっきのビール如きで酔って夢で泣いていたらしい。けれどそれは予知夢なんじゃなかろうかって気がした。確認すると、やっぱり地下室にはコレクションは無く新婚旅行土産の未開封のハブ酒だけが残されていた。俺は愛してやれなかった女狐が戻る前に、最低最悪な悲しい夢が再現されない為に去ることにした。テーブルの上のクリスマスの準備が俺の歓迎の物ではないのは玄関の隅にあったセンスの悪い男性用スニーカーで気が付くべきだった。
俺は知っている。ダサいスニーカーを履く男に限って女を幸せに出来ることを。
歯磨き粉から電話があった。夢で聞いた内容と一緒だった。俺は彼に女狐の口座の凍結と金だけは取り戻すハッキングを頼んだ。
メールを確認した。刑務所で俺が貰った手紙の複数の消印の関係性からだけで送り主の隠した居場所を探し当てる手腕に感服した。もう時代遅れな金庫破りの俺が活躍出来る時代じゃないと痛感した。
俺はメールに記された住所に向かった。手の届かない遠い場所に消えたと思っていたボスは県境の海に面した特別サナトリウムに病と共に暮らしているらしい。
手頃な車を盗んで、速り迅り逸る心に追い付くスピードで雪舞う海岸道路を突っ走った。
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