金庫破りのクリスマス

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 俺が裏家業連中ばかりを専門に狙った金庫破り(Bankrobber)だったのは別に生活に困窮していたからじゃなかった。手先の器用さや知識の豊富さよりも狙った獲物は逃さない蛇のような執念深さと一撃必殺な牙を持つ手腕を見込まれ窃盗団の仲間に誘われたからだ。あの頃、絶望的なまでに世の中に退屈して酒浸りだった俺は愉快なことが出来るならば生き方は何でもよかったのかもしれない。  俺をこの世界に誘った謎のボスは、若いのか老けているのか、美しいのか醜いのか、日本人なのか外国人なのか、そもそも男か女なのかさえも分からなかった。それはベールの向こうから指示する秘密主義の隠匿者という意味ではなく、毎度違った借り物の個性で人前に登場するからだ。一昨日はブライアン・デ・パルマの「ファントム・オブ・パラダイス」だったのに、昨日は「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーで、今日は「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のカート・コバーンな出立ちって具合の奇妙なコスプレマニアだった。特にお気に入りはマイケル・ジャクソンとマリリン・モンローだった。その格好で盗みを働く。  俺はボスのその承認欲求の高さが致命傷になるのじゃないかって毎度ヒヤヒヤだった。
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