金庫破りのクリスマス

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 ボスは組織の連中に厳しかったが、俺にだけには甘かった。酔いどれ癖でヘタ打っても大目に見てくれた。時々熱視線を感じたが、あの頃の俺はその先にあるのがロマンスなのかブロマンスなのか判断出来ずに警戒していた。  ボスは俺が極度の酒好きだと知って金品のついでに高級ワインや幻の日本酒などを盗んできてはプレゼントしてくれた。俺の酒コレクションは誰にも負けないミュージアム級になった。まあ、どんな高額な酒であろうが俺は惜しみなく呷ったが。正直なところ酒の味に煩い訳じゃなかった。飲んだことのない珍しい酒であれば安かろうが高かろうが関係なかった。「酒をやめろ」とは言われなかった。呑んでいないと手が震えて金庫のダイヤルが回せなかったからだ。けれどアルコールが血中濃度の限界に近づけば近づく程に勘と技が冴えた。アナザーラウンドの領域を目指し次の一杯を飲み干した。 「私は欲しいモノは、どんな手段を使っても絶対に手に入れる」  それがボスのモットーだったが、俺の心の鍵はこじ開けられなかった。
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