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あの日、俺とボスは成功の美酒に酔いしれていた。なんで古今東西の悪党は廃ビルにアジトを構えたがるんだろうかが不思議だった。ボスほどの大物なら超高級タワーマンションの最上階に君臨してもよかろうに。
俺はこの場所が大好きだった。革が破れコイルが飛び出したソファーに座って、崩落寸前の剥き出しの壁に反響して空間を飛び回るオーセンティックなDUBを聴きながら飲む酒は格別だった。
カルト宗教団体の中枢に仲間を送り込み口座を触れる立場まで侵蝕していたハッカー部隊は、隠し財産の一部を掠め取る事に成功した。けれどそれは教団には何のダメージも与えなかった。目減りした金は改めて信者から巻き上げればいいと姿勢を変えなかったからだ。
俺とボスだけのフィジカルチームは秘密裏に別作戦を遂行した。それは教団教祖の個人コレクションである絵画や仏像などの古美術品を盗み出す荒技だった。
「己を解脱した超常の頂上的存在と思っている奴に限って金で買えない芸術作品に固執する俗物なんだよ。ガッカリさせてやろうじゃないか」
ボニー・パーカーなボスに無理矢理にクライド・バロウの衣装を着せられた俺は、心の中で蜂の巣にされるラストを恐れながらもボスの舞台で共演を務め上げ、教祖の屋敷に忍び込み根こそぎ拝借の饗宴に成功した。
あの頃の俺たちには明日があった。
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