2人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日はメンズバレンタインデーらしいですよ」
とある日の朝、朝食の後スマホを弄っていた秀臣が言った。
茶髪にピアスという誰が見ても軽い外見の彼は、今川秀臣二十七歳、独身。
たれ目勝ちな瞳と左目元の黒子が何かいやらしい。
着ている服装はラフなもので、今日は久々に二人揃ってオフなので、デートでもしようかと相談していた矢先の事であった。
その言葉を聞いて、今までキッチンで後片付けをしていた絶賛同棲中の恋人、宮白和音がキッチンからいそいそと出てきて、隣に座る。
逞しい身体つきに黒い艶のある髪を短くまとめ、切れ長の瞳が強気な印象を与える和音もまた独身。
三十六歳と、歳上ではあるのだが、秀臣と二人きりでいる時だけ甘々になる。
秀臣としては、普段から甘えて欲しいのだが、とにかく、隣に座った和音が首を傾げた。
「何だそれ? んな日があるなんて、初めて聞いたぜ」
「俺も今知りました」
サイトを観ている横で、和音も近寄り画面を覗き込む。
「えー、何々? ……メンズバレンタインデーとは、男性が好きな女性に下着を贈り、愛を伝える日です」
「……」
サイトを見詰めたままでも、説明文を読む和音の表情が、段々と難しいものに変わっていくのが、手に取るように理解る。
「んだこりゃ? バレンタインデーでの事で三倍返しとか言うクセに。更にメンズバレンタインデーとかで、まだもらうつもりなのか? しかももらうのが下着って……。ちょっとどうかしてると思う」
子供みたいに滅茶苦茶素直に思った事を口にしている。
そんな和音の横顔をちらりと見ながら、秀臣は苦笑した。
今日は天気が良い。
出かけるには絶好の日和で、メンズバレンタインデーだと知った時から、秀臣はちょっと企んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!