恋する乙女

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先輩が好き。 決して格好いい訳でもなく、なぜ好きなのと言われてもよくわからない。 それでも先輩の横顔。 筋ばった腕。 汗を拭うその仕草。 背の低い先輩が、一生懸命背伸びをしようとしている姿が、このうえなく愛しく思えた。 だから落合心(おちあいこころ)16歳は、その日。一大決心をして告白しようと決めていた。 9月中旬。日曜。晴れ。午前10時。 人通りの少ない並木道を歩いていると、それは空から降ってきた。 「にゃああんん」 ゴツン。 タライでも降ってきたのかと思うほどの衝撃を私は受け、脳震盪(のうしんとう)を起こしてドテリと倒れてしまった。 「いたたたたた。なんなのよ。こんな大事な日に」 ガバリと起き上がり私は頭を振った。 今日は大好きな先輩に愛の告白をする日、たんこぶつけて好きなんて、かっこ悪すぎる。 ん。 なにか違和感を感じた。 景色が変だ。 この道ってこんなに広かったっけ?あれ、目の前の木が高層ビルの様に聳えたっている。 そして私はとんでもないことになっていたのです。 手元を見る。 肉球。 驚いて顔を押さえる。 顔中ふさふさの毛。 大きな耳に、四足歩行、真っ白な長い体毛。猫のメイクーンに私は、なっていたのです。 「なんにゃこれ」 傍らで絶叫する声。私は顔をあげて見た。 ボブカットでさらさらヘアー。口元にホクロがあり、真っ白なワンピースを着ている人間。 馬鹿な。私が目の前にいる! 私らしき人と目が合う。 「それ私の、体にゃ」 「私の方こそ、その体、私の」 「……」 「……」 ──私たち入れ替わってる!
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