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目覚ましがうるさく響く。
ぼんやりとした頭を叩きつけるような音、あまりにも不愉快だ。
毎朝聞いているのに、いつまでたっても慣れやしない。
床に散らばったよれよれになったシャツやかろうじて形を保っているリボンなどを持って、姿見の前に立つ。
うっわ、きもちわりぃ。
今現在の自分に軽蔑の言葉がこぼれた。
頭の上に乗っているとしか思えないほどばさばさに広がった髪の毛、何の色気も感じない上下の下着、全体を包み込む暗いオーラ。
私は花の女子大学生。本当にそうなのだろうか。
花盛りの年頃とは思えないほど、私という人間は女性としての魅力に欠けていた。
「どうせ陰キャだしな。ていうか、胸小さ……」
自己嫌悪、あるいは自虐か。
服をひとつ身につけるたびに、ボソボソとした呪詛のような言葉があふれ出た。この部屋は呪詛でまみれ、空気まで汚れてしまっている。
朝食を食べる気にもなれず、身なりをそれなりに整えてから家を出た。
友達という友達がいるわけじゃない。常に孤独だ。
隣の席に座る人も私のことを知りはしない。
グレーのパーカーの男はせわしなさそうにスマホをいじっていた。
私は参考書を適当に眺めていた。
私のことなんて誰も知らない。それでいい。
隣の人はスマホをしまい、立ち上がった。
「これ、預かっててくれない?」
「は?」
「じゃ、頼んだ~」
男は紙袋を私に押し付けて、どこかへ行ってしまった。
紙袋の中には綺麗にラッピングされた箱が入っていた。
プレゼントか何かだろうか。
よく分からないまま紙袋を足元に置くと、今度は茶髪の女がどたどたと入ってきた。
「すみません! グレーのパーカーを着た男を見ませんでしたか!」
「あー……その人ならさっき教室を出ていきましたよ」
「ありがとうございます!」
女は慌てた様に教室を出て行った。
めんどうだから、さっさと見つかってほしい。
そう思っていると、男が目の前にひょっこりと顔を出した。
つい先ほどまで隣に座っていたあの男だ。
「何なんですか、あなた」
「世紀の大泥棒……になる予定の男、かな」
舌なめずりをして、にやりと笑う。
今世紀最大の馬鹿が目の前に現れた。
預かっていた紙袋からプレゼントを出し、私の前に置いた。
「これ、あげるよ。
あんな子だと思わなかったから、もういらないし。
あ、ここに来たことは黙っておいてね。見つかったらマジやべェのよ」
「私もいらないんですけど」
「じゃあ、売っちゃっていいよ。
セレブランチを堪能できるくらいの額にはなるはずだから。
じゃあねっ!」
男は片手を上げて走り去っていった。
私はプレゼントをまじまじと見つめる。
紙袋を破る気にはなれず、そのままカバンにしまった。
セレブランチか。想像したこともない。
女子大生が行っていいものか。
いや、そもそも一目見ただけで断られるかもしれない。
こんな重苦しい雰囲気をセレブが好むわけがない。
「髪でも切るかー……」
どうせだし、思い切って短くしてやろう。
そうすれば、少しは綺麗に見えるかもしれない。
私はすっと立ち上がって、近くのサロンへ向かった。
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