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side 美衣子
夕方の公園はたくさんの小学生たちで溢れていた。その中でも一際笑い声が響いているのが、ボールを使うため人達用の、高い柵に囲まれた広場だった。そこでは小学生の男児と男子高校生がサッカーをして盛り上がっていた。
その様子に見向きもせずに、女児たちはブランコに乗ったり、その周りの柵に腰をかけてお喋りに花を咲かせていた。
ただ美衣子だけは違った。みんなの会話に耳を澄ませながらも、視線はサッカーをしている人々に向けられる。
それに気付いた友人が声をかける。
「みーちゃん、何見てるの?」
「えっ、あっ、サッカー! 楽しそうだなぁと思って」
「えーっ、うるさいだけじゃない? しかも高校生いるし、ちょっと怖くない?」
「なんかあのネクタイしてない人が、小沢のお兄ちゃんらしいよ。ほかの三人はお兄ちゃんの友達なんだって。試験が終わったから遊びに来たって」
「へー……そうなんだぁ」
その時だった。ガシャンという大きな音と共に、騒ぐ声が聞こえる。全員の視線が広場の方へと向かった。
そこには小学生を庇うように柵にもたれかかる男子高校生が見えた。ただ怪我は大したことがなかったのか、高校生は笑顔を向けると、再びサッカーが始まる。
ただ高校生はそのまま手洗い場へ歩き出した。
「ケガしたのかな?」
「かもね」
友人は軽く言ったが、美衣子はどこかソワソワした。それから自分の移動ポケットの中に絆創膏が入っているのを思い出すと、胸がドキドキし始める。
高校生となんて話したことがない。小学生が話しかけて、もし冷たく返されたら怖い。でも怪我をしているのに放っておくのも良くない気がする。
「私ちょっと行ってくる」
「えっ、どこに?」
美衣子は返事もせずに、ただ意を決して高校生の元へと走り出した。
手洗い場で手首の辺りを水で流している高校生にドキドキしながら近寄り、ゴクッと息を飲み込む。それから息を吐いて口を開いた。
「これあげる」
美衣子は腰につけた移動ポケットの中から絆創膏を一枚取り出すと、高校生に差し出した。
彼はキョトンとした表情で美衣子を見つめる。
「えっ、いいの? 助かるよ、ありがとう」
満面の笑顔を向けられ、美衣子は恥ずかしさのあまり下を向いてしまう。
「ねぇ、悪いんだけどさ、それ貼ってくれる? 手首って自分じゃ貼れないんだよね」
美衣子は驚きながらも頷いて、少し震える手で彼の手首に絆創膏を貼った。すると彼がにっこり微笑む。
「ありがとう」
その瞬間、美衣子は心臓の音が耳に聞こえるくらいの緊張を感じる。なんか苦しくて息ができない……。
「い、いえ! どういたしまして!」
なんとか言葉を搾り出し、美衣子は両手で頬を押さえながら再び友人たちの元へと戻った。
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