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第一話 cue
自分は割と何があっても動じない人間だと思っていた。
そして誰かから人はビックリしすぎると声など出ないものだと聞いたことがあったのだが、そんなこともなかた。
以前耳にしたことがある小さなおじさんなど、妖精のような存在の話は正直ばかげていると思っている。
だが今僕の目の前には助けを求めているように見える小さな生物がいる。
「え~?」
一人なのに通りの植え込みに挟まっている生き物に訝し気な声をあげてしまう。
どうするべきなのか分からず、見落としてしまえればよかったのにと思った。
「すみません、ここから僕を出してもらえませんか?」
もしかして大きな虫なのでは?としゃがんで覗き込んでいた僕は、それがしゃべったのでびくりとした。
「あの~、あなたは何ですか?」
ピーターパンのような恰好をしたその男の子は気が強そうな顔をしている。
「見て分かりませんか?妖精です」
人にお願い事をしている割には強気だなと思った。
「妖精?」
普通妖精というのは可愛らしい女の子と相場が決まっているのではないかと思ったが、植え込みの間でもがいている彼を指でツンツンとしてみた。
「そういうのいいんで早く引っ張ってください」
余裕がないからか、いちいちトゲのある言い方の彼を不承不承引っ張ってみた。
「いっ!」
怪我をしているようで顔をゆがめる。
「大丈夫?」
キッと僕を睨んだ彼は、もう少しそっと!と言った。
仕方なく僕は鞄を道路におろして植え込みに手を突っ込むと、彼が引っかかっている周りの枝をよけて引っ張り出すことに成功した。
「ありがとうございます」
「足から血が出てるけど平気?」
彼はため息をつくと僕が平気に見えますか?と聞いてくる。
「い、いや君みたいな子に会うのは初めてだからよくわからなくて・・」
跪いて対峙している僕に、小さな彼は腕を組んで仁王立ちして自分もなぜだかわからないのだと首を傾げた。
「えっ?」
「どうして下界に落ちてきたのか・・」
君は天国から来たの?と訊ねる僕に、説明するのが面倒そうな彼は、まあそういうことでいいですと言った。
いい加減イラっとしてきた僕は、それじゃあと言うと立ち上がった。
「ちょっと!」
振り向いた僕に、彼は心底呆れた顔をして、困っている人には手を差し伸べるのが常識でしょうと言った。
以上が僕が妖精のお世話をすることになった顚末です。
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