わん

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「と、とにかく俺は制作室に戻るからっ」 やや強めの口調でそう告げると、城矢もそれ以上は食い下がってこなかった。 しかしーー。 「……ナナちゃん、もしかして具合悪い?」 代わりにそんな質問をされたから、俺は思わず立ち止まった。 ……確かに、朝から少し身体がダルい感じはある。風邪をひいたとかではなく、恐らく疲れが溜まっているのだと思う。 スケジュールにはまだ余裕があるし、基本的には残業もしていない。しかし、イメージに実力がいまいち追いついていない実感が拭えず、家に帰っても仕事のことばかり考えてしまったり、その結果しっかり休めていなかった。おまけに寝付きが悪い日も続いている。 しかしーー。 「べ、別にそんなことない」 自分の弱い部分なんて、誰にも見せたくない。特に、同期なのに俺より実力が優れていて、そのうえ俺が持っていないものを何でも持ち合わせているような、城矢にだけは。 「じゃあな……」 俺は素っ気なくそう告げてから、今度こそラウンジを後にしたのだった。
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