お手!

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俺は城矢のお母さんに抱っこされたまま、二階の城矢の部屋に連れてきてもらった。 今は一人暮らしをしているからだろう、荷物は少ない。しかし使い込んだ机や趣味の本が詰まった本棚はそのままで、城矢はここで育ってきたんだなぁということが感じられて、何だか新鮮。 すると凛さんも後から部屋に入ってきた。 「ナッちゃん、じゃーん! 私の部屋から、ワンちゃん用のおもちゃ持ってきたよー!」 え?犬のオモチャ?お、俺が使うの? 戸惑う俺を、城矢のお母さんがそっと床におろす。 それと同時に凛さんが、俺の目の前にオモチャを置いた。 骨の形をした、ぬいぐるみのようなオモチャ。恐らく、噛んで遊ぶやつだ。 「さあ! 遠慮なく噛んで、ストレス発散して!」 こんな物で遊んだことはもちろんないので、どうしたものか戸惑ってしまうが……凛さんのご厚意を無駄にしてはいけない気がして、俺はそのオモチャを噛み、その場でくるくると回って嬉しそうなフリをしてみせた。 「きゃー! 可愛い!」 「嬉しそうねぇ」 凛さんとお母さんが俺を見て楽しそうにそう言う。 人間としてのプライドも一応待ち合わせてはいるが、二人共嬉しそうだから、そこはまあ良しとする。 ……でも、俺がポメガだってことを知ったら、この二人もきっとこんな風に笑ってはくれなくなるのだろう。 俺は、世間体ばかりを気にして俺を誰ともかかわらせようとしなかった自分の母のことが苦手だった。だけど今……結局は俺自身も、そんな母と同じなのかもしれないと思う。城矢の家族に嫌われたくなくてーー普通の人間じゃないと思われるのが嫌で、正体を隠すことに必死になっているのだから。
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