わん

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ーーこの世界には、〝ポメガ〟と呼ばれる人種が稀に存在する。 ポメガは、普段は普通の人間となんら変わりない。 しかし、疲れたり驚いたりなど、身体的・精神的に何らかの異変があった際、身体がポメラニアンに変身してしまうという体質を持っている。 生まれつきポメガだった俺は、小さい頃からこの体質に非常に悩まされてきた。 とはいえ、最近はあまり変身したことがなく、ポメ化を特に気にせず生活が出来ていた。 しかし、それがかえって油断を生んだようだ……。まさか仕事場で、しかもよりによって、苦手な城矢の前で変身してしまうなんて……。 「ポメガ……。学校で少し習ったことはあるけど、まさかこんな身近にいたなんて……」 城矢は驚きを隠せない様子のまま、ポメ化した俺の姿をじっと凝視していた。 「び、びっくりさせて悪い……」 何にせよ、驚かせてしまったことは事実。俺は城矢に、まず謝罪の言葉を口にした。ポメラニアンの姿になっても、言葉は話せるし意識も人間の時のままだ。 「自分の体調にもっと注意しておくべきだった。本当にすまない」 「……」 「い、犬は嫌いじゃないか? 大丈夫か?」 「……」 「し、城矢? どうした?」 「あっ、ごめん! ポメラニアン姿が可愛すぎて、言葉を失ってた……!」 「は、はあ?」 「俺、犬が大好きなんだよー! 実家でも飼ってるんだけど、人間の言葉で喋ってるポメとか最高かよ! ほんと可愛いー!」 「お、お前なぁ!」 急にテンションが上がった城矢に思わずツッコミを入れたが、犬嫌いじゃないのなら、ひとまず良かった。
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