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「でも、銀行でおろせばあるでしょ」
「百万円をポンと渡せる余裕はないよ。どうしても必要なら、しばらくは毎月いくらか仕送りするから」
「五十万なら出せる?」
「いや、だから仕送り……」
「何よ、薄情者‼︎」
「え……」
急に荒げられ、驚いた……と言うよりは、引いた。
薄情者って……確かに俺の態度は少し冷たかったかもしれないが、ここ数年の自分達の関係から考えれば、そこまで言われる筋合いはない。
しかし母は、俺のそんな考えを無視するかのように更に声を荒げる。
「誰が今まであんたのこと育てたと思ってるの⁉︎ ただでさえ大変だったのに、あんたがポメガだってバレないようにいつも一緒についていなきゃいけなくて、本当に苦労したんだから‼︎」
「……っ、育ててくれたことには感謝してるよ! だけど、俺が東京に来てからは連絡すらほとんどなかったじゃん! 数年振りに会ったのにいきなり百万渡せって言われても無理だよ!」
……それに、いつもついてこられるのは嫌だと、俺だって何度も伝えた。嫌だったのに分かってくれず、やめてくれなかった。俺がどこへ行くにも母はついてきて、監視されて、辛かった。
それでも、母はーー。
「高校卒業するまで育ててあげたんだから、じゅうぶんでしょ!」
さっきの俺の発言がよほど癇に障ったらしく、落ち着く気配はない。俺が逆らうと必ず大声でキレてくるのは昔から変わらない。
「いいから黙って金をよこしなさいよ‼︎ 早く‼︎」
「ちょ……俺も大声出しちゃったけど、夜だし近所迷惑だから、いったん落ち着いて……」
「偉そうにしないでよ! 女手一つで苦労して育ててやったのに、助けてもくれないわけ⁉︎」
「た、助けないとは言ってないだろ。頼むから、声の音量下げてーー」
「うるさい! そもそも、何で私が片親で苦労してたと思ってるのよ⁉︎ 父親がいないのは、あんたがポメガだったせいだからね⁉︎」
「え……?」
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