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父親がいない理由は、今までちゃんと聞いたことがなかった。
正確には、子供の頃に一度だけ聞いたことはあったのだけれど、その時も母が酷く怒って怒鳴り散らしてきたから、それ以降は全く聞けずにいた。
父とは会ったことがないけれど、死別ではなく離婚だとは聞いていたから、両親同士の性格の不一致とかかな、などと勝手に思っていた。
でも、それは違った……?
俺のせいって一体……?
母は、少しだけ声の音量を下げ、しかし明らかに怒ったままの様子で俺を睨み付けながら、こう話した。
「あんたが、産まれてすぐポメガだってことが分かって……その途端、父親はあんたのこと気持ち悪いって言って、家に帰ってこなくなったのよ。そのまま外で他に女を作って、離婚したわ」
「……そう、だったの?」
「そうよ。全部あんたのせいだからね」
母はそう言うと、その場にスッと立ち上がる。
「とりあえず、さっきもらったお金で今日はホテルに泊まって、明日帰るわ。五十万が無理なら最低でも三十万、明日にでも振り込んでおいて。後で口座番号を送っておくから」
「……うん」
そうして、母はそのまま玄関を出て行った。
いつまでも居座られても困るのでとりあえず『うん』と答えたが、三十万を振り込むかはまだ悩んでいる。
しかし今はそれよりも、父と母の離婚理由について頭がいっぱいだった。
離婚したのは、まさか俺のせいだったなんて……。
俺が……
俺がポメガのせいでーー。
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