待て!

15/34
前へ
/192ページ
次へ
父親がいない理由は、今までちゃんと聞いたことがなかった。 正確には、子供の頃に一度だけ聞いたことはあったのだけれど、その時も母が酷く怒って怒鳴り散らしてきたから、それ以降は全く聞けずにいた。 父とは会ったことがないけれど、死別ではなく離婚だとは聞いていたから、両親同士の性格の不一致とかかな、などと勝手に思っていた。 でも、それは違った……? 俺のせいって一体……? 母は、少しだけ声の音量を下げ、しかし明らかに怒ったままの様子で俺を睨み付けながら、こう話した。 「あんたが、産まれてすぐポメガだってことが分かって……その途端、父親はあんたのこと気持ち悪いって言って、家に帰ってこなくなったのよ。そのまま外で他に女を作って、離婚したわ」 「……そう、だったの?」 「そうよ。全部あんたのせいだからね」 母はそう言うと、その場にスッと立ち上がる。 「とりあえず、さっきもらったお金で今日はホテルに泊まって、明日帰るわ。五十万が無理なら最低でも三十万、明日にでも振り込んでおいて。後で口座番号を送っておくから」 「……うん」 そうして、母はそのまま玄関を出て行った。 いつまでも居座られても困るのでとりあえず『うん』と答えたが、三十万を振り込むかはまだ悩んでいる。 しかし今はそれよりも、父と母の離婚理由について頭がいっぱいだった。 離婚したのは、まさか俺のせいだったなんて……。 俺が…… 俺がポメガのせいでーー。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1179人が本棚に入れています
本棚に追加