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「ナナちゃん……」
城矢の右手が、俺の頭をそっと撫でる。
抱き締めてほしい気もしたけれど、人混みの中で大の男同士が抱き合っていたら目立ってしまう。城矢も、気を遣って頭を撫でるだけに留めてくれたのだろう。
「……ナナちゃん、この後、本当に何か用事ある?」
城矢からのその問いに、俺は思わず首を横に振った。用事があるなんて嘘だと、城矢には見透かされていたようだ。
「じゃあ少し話そう? そうだ、ちょっと夜風にでも当たろうか」
城矢は俺の背中をポンと優しく押し、それにつられるように俺はゆっくりと歩き出した。
ーー…
駅を出て、城矢に促されて向かったのは、自宅アパートの近くにある小さな公園だった。
平日の夕方や休日の昼間などは子供達が遊んでいる様子をよく見掛けるけれど、この時間はさすがに子供どころか誰もいない。ひと気のない場所を、あえて選んでくれたのだろう。
どこかに座って話すかという流れになり、ベンチよりもブランコの方が近かったので二人でそこに腰をおろした。
ブランコに乗るなんて何年振りだろう。こんなに小さい乗り物だったっけ……。
ブランコを控えめに漕ぎながら、城矢が静かに口を開いた。
「ナナちゃんが張り詰めてるのは、やっぱり……昨日来ていたお母さんが原因?」
その質問に、俺はコク、と頷いた。
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