わん

17/23
前へ
/192ページ
次へ
ーー… 「そんなに恥ずかしがらなくても、ほとんど見てないよ」 着替えを終えて応接室から戻ってきた後もなお落ち込んで口数の少ない俺に、城矢が明るい口調でそう言った。 それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだが……いつまでもウジウジしていても仕方がない。俺はゆっくりと顔を上げ、城矢と目を合わせた。 「良かった。目が合った」 城矢がそう言って、嬉しそうに笑う。……美形の笑顔って、ムカつくくらい綺麗だよな。相手は城矢なのに思わず、魅入りそうになってしまった。 「そういえば……」 そんな俺に、城矢がふと口を開く。 「ナナちゃんは、周囲にはポメガだってことは隠してるんだよね? じゃあ今までは、ポメラニアンの姿から人間に戻る時はどうしてたの?」 「あー……子供の頃は、母親に撫でてもらうことが多かったかな……。今は、色々あって母親のことはあまり好きじゃないんだけど……一人暮らししてるからあまり会うこともないし……」 「そっか。ちなみに、他にご家族は……?」 「えっと、家族は母だけだから……。俺がポメガだってことを知ってる友達が一人だけいるから、今はそいつに助けてもらうことが多いかな」 「そうなんだ。子供の頃、友達と一緒にいる時にうっかり変身してしまうこととか全然なかった?」 「そういうことがないように、友達はほとんど作ってこなかったから……」 ……それは、まだ幼かった俺に母が忠告してきたことでもあった。 『誰とも深くかかわっちゃ駄目よ。あなたは、普通の人間じゃないんだから』 幼かった俺が、傷付いた言葉。 しかし、傷付きながらも母の言う通りにしようと、子供の頃の俺はいつも一人で過ごしていた。 母の言葉なんて、大人になった今ではもう、関係ない。 自分のやりたいようにやればいい。友達を作りたいとか、自分を変えたいと思ったこともあった。 しかしーー今さら人と話すことも上手く出来ず、結局はいつまでも一人のままだ。 まあ、一人で過ごす方が気楽でもあるし、別にそのことで母を恨んでもいない。 母と距離を置くようになったのは、別に理由がある。 「……まあ、とにかくそんな感じ。他に、何か質問あったりする……?」 「うん。ある」 「ど、どうぞ……」 「俺、ナナちゃんの友達になってもいいってことだよね?」 「……はい?」
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1179人が本棚に入れています
本棚に追加