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ついでにそう聞いてみたら、母は冷静な声でこう答えた。
【残念ながら、あんたの父親が不倫していたのは本当よ。離婚の原因はあくまで夫婦間のことだし、あんたのことは可愛がってたみたいだったけど……】
「……うん。そっか」
【それでも不倫は許せなかったから、二度と七生とは会わせないっていう条件で離婚したの】
「うん」
……二度と会わせないという条件は、ひょっとしたら母なりの俺への愛情ではないか……なんて、つい考えてしまった。もちろん、本当のところは分からないけれど。
【……もしかして七生、お父さんに会いたい?】
「え?」
【あんたがどうしてもって言うなら、連絡先を教えても……】
「いや、思ってないよ」
自分の父親に興味がないわけではないが、どんな理由であれ不倫をして家を出て行ったのが事実ならば、きっとろくでなしだ。今さら会ったところで、父親とも思えないだろう。
俺は一呼吸置いた後、今の自分の気持ちを母に伝えていく。
「……俺、今までのことを振り返ると、やっぱり母さんとはこのまま距離を置いていたい。でもーー俺にとっての家族は、これからもずっと母さんだけだと思ってる」
いつか、気が向いたら実家に帰ります。そう伝えたら、母は小さな声で【うん】と答えてくれたのだったーー。
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