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電話を切った後、壁に背中を預けて「ふぅ……」と深く息を吐き出した。
するとーー。
「ナナちゃん?」
名前を呼ばれて振り向いた先には、城矢がいた。制作室から出てきたところだろうと思われる。
「城矢」
「電話してた?」
「うん。……母さんと」
「……そっか」
城矢はこちらへ歩いてくると、そのままラウンジのソファに腰をおろした。
……俺も、何となくその隣にそっと座る。
「ナナちゃん、もうお昼食べた?」
「あ……いや、これからおにぎり食べる」
「じゃあ一緒に食べよ!」
「う、うん」
……母さんと電話していたことについて、城矢は特に何も聞いてこない。
だからこそ、そんな城矢にだからこそーー俺は今の自分の気持ちを口にしたいなと思った。
「……俺、さ。多分、城矢のお陰で、心に余裕が出来たんだと思う」
「え?」
「……子供の頃から母さんとは仲良くなかったし、コミュ障だったから友達も恭司しかいなくて……そのせいか、どんなに仲が悪くても母さんを自分から完全に切り離すことが出来ない自分がいたんだよね」
ーー切り離すことが出来なかった理由は、母さんが好きだからとかじゃない。母さんまで自分から完全に切り離したら、俺は本当に孤独になる気がして、それが怖かった……。
恭司とは仲は良いけど、友達と家族はやっぱり違う。そして恭司には、俺の他にも家族や恋人がちゃんといる。俺が恭司に依存してはいけないとずっと思ってた。
「……でも、城矢が俺のことを好きって言ってくれたお陰で、母さんのことが嫌なら無理して付き合わなくていいって思えた。別に、絶縁したとかじゃないよ。ただ、城矢がいてくれなかったら俺は今頃、母さんの言いなりになってたかも。貯金を全部渡して、仕事も辞めて地元に連れ戻されていたかもって、結構本気で思う」
そうならなかったのは、きっと城矢のお陰。城矢のお陰で、俺は自分らしく生きる選択が出来たのだ。
「だから、ありがとな」
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