わん

19/23
前へ
/192ページ
次へ
「そ、それに俺、一人でいるのも別に好きだし……」 そう伝えても、城矢は距離を詰めながら、これでもかというくらいに食い下がる。 「一人になりたい時は一人の時間を優先してもいいよ。でも、友達がいると楽しいこともたくさんあると思う! ちなみに、話すのが苦手だっていうのは、俺は全然気にしないよ!」 「いや、そういう問題ではなく……」 「はい、決まり! 今日から俺らは友達ね!」 「なっ⁉︎」 何やら勝手に決定された。 撤回してくれと主張したい一方、俺がこれ以上何を言っても、城矢は自分の意見を曲げない気もした。 だとしたら、もはや口論するのは無駄なような……。諦めて、友達認定されておくべき……? そんな俺に、城矢はにこにこと、やたら嬉しそうな笑みを浮かべてこう言う。 「さて。なんやかんや結構遅い時間になっちゃったし、やっぱり帰ろうよ。さっきは引き下がったけど、ポメラニアン化するほど具合が悪いって発覚したわけだし、友達としてこれ以上の無理はさせられないよ」 「え……で、でも……」 「もっと体調崩して入院なんてことになったら、それこそ納期がピンチになるよ。ナナちゃんがメインで請け負ってる案件だけど、別にナナちゃんだけが無理する必要ないじゃん。何かあれば、みんなにもっと頼ればいいんだし。みんなも、いつもナナちゃんのこと頼ってるんだから、お互い様だよ」 「……」 俺は、ゆっくりと首を縦に振った。 無理がたたればそれこそ納期がピンチだという城矢の言葉には、確かに……と納得した。 だけど何より、『みんなにもっと頼ればいい』という言葉が嬉しかった。 人に頼ることはあまり好きじゃなかったし、普段は自分から人を避けてる自分が、都合良く誰かに頼るのはいけないことのような気がしていた。 だけど……城矢がそう言うなら、〝頼ってもいいのかな〟と、不思議と素直に思えた。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1179人が本棚に入れています
本棚に追加