わん

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俺の家は、職場の最寄駅から各停電車で六駅。 城矢の自宅は同じ路線の二駅手前らしいのだが、俺と一緒に電車を降りて、俺が一人暮らしをしているアパートまで送ってくれることになった。 アパートまでは、徒歩で十分くらい。 まだそこまで遅い時間帯ではないけれど、住宅街からは少し外れているため辺りはシンと静まりかえっている。 「まだ五月だけど、今日は何だか暑いね」 「う、うん……」 「そろそろTシャツ一枚でも余裕だよねー」 「うん……」 ど、どうしよう。城矢がさっきから話を振ってくれているのに、俺は「うん」しか返せずにいる。 城矢は何も気にしていないかもしれないが、何か、何か俺からも話題を振りたい……。 「ナナちゃん、どうした? そんな難しい顔して」 「えっ、あ、いや……」 「あ、そうだ。ナナちゃん、俺に何か質問してみて? 今日はナナちゃんのことを色々知れたから、ついでに俺のことも知ってほしいなーなんて」 「し、質問か。えっと、えっと……」 「何でもいいよ。ーーたとえば、俺が女性をとっかえひっかえしてるって噂は本当なのか? とか」 「っえ⁉︎」 き、聞きたくないと言ったら少し嘘になるけど、それは聞いてもいいものなのか⁉︎ 「あはは、なんちゃって。単純に、その噂の否定がしたいだけ」 「ひ、否定ということは……?」
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