くーん

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くーん

「甲斐君。今日、仕事終わったらみんなで飲みに行かないかって話してるんだけど、都合どうかな?」 ある日のこと。制作室でいつものようにパソコンと向かい合っていると、沢田さんから不意にそのように話し掛けられた。 「飲み会、ですか?」 「うん。甲斐君もたまには来ない?」 「い、いえ。俺はいつも通り不参加で……」 飲み会なんて、コミュ障の俺からしたら地獄の場でしかない。参加したところで、何も話せず、大して好きでもない酒をちびちび飲みながら、ただひたすらお開きの時間を待つだけになるに決まってる……! そんな理由(わけ)で俺が飲み会の誘いを断るのはいつものことなので、沢田さんも「そっか。じゃあ、また別の機会に」と答えると、そのまま自分のデスクへ戻っていった。 誘ってくれたのに、いつもすみません……とは思う。 でも、せっかくの飲み会なんだし、俺がいない方がみんな楽しいんじゃないかとも思うんだよな。楽しい空気を壊したくない、っていうかさ。
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