くーん

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「うんうん。無理しないのが一番だよね」 「は、はい」 浅間さんは、年齢は六つ上だが、うちの職場に中途入社してきたのは四ヶ月前のこと。 その頃に行なわれた、浅間さんの歓迎会という名目の飲み会には少しだけ顔を出したけれど……その時も俺はほとんど喋らず、飲み会が終わったらそのまますぐ帰ってしまったっけ……。今思い返すと、申し訳なさすぎるな。 「甲斐君と仕事以外でゆっくり話すのって、そう言えば初めてだよね」 つまみの揚げ物を口にしながら、浅間さんが言った。 「そ、そうですね……あの、その、いつもすみません……。俺、全然会話とかしなくて、その……」 「はは。そんなに緊張しなくていいよ。この職場では、甲斐君の方が先輩なんだし」 あわあわと動揺する俺に対し、浅間さんは優しく微笑んでいる。 そして……。 「俺も人と話すのそこまで得意じゃないから、気持ち分かるし。でも、甲斐君ともっと話したいと思っていたから、今日は飲み会に来てくれて良かった」 「そ、そんな……」 ど、どうしよう。そんな風に言ってもらえて凄く嬉しいのに、気の利いた返しが思い浮かばない……。 しかしその時、今日の昼間に城矢から言われたことを思い出す。 『上手く話す必要ないじゃん』 ……そうだよな。 上手く話せなくてもいい。だけど、思ったことを素直に伝えたい……。
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