わん

3/23
前へ
/192ページ
次へ
とことん実力勝負で厳しいこともある業界だが、仕事はとてもやり甲斐がある。 何より、俺はデザインの仕事が単純に大好きだ。 仕事をしていると、大変なことや落ち込むことももちろんあるけれど、そんなところも含めて、今の仕事はとても充実している。 ……しかし、そんな俺にも悩みは存在する。 それはーー。 「あ、甲斐君。昼食中?」 「!」 急に話し掛けられ、思わずビクッと肩が震えた。 ゆっくりと振り向くと、そこには同僚の女性社員である山村(やまむら)さんと沢田(さわだ)さんがいた。 「甲斐君、私達これから駅前のパスタ屋さんに行くんだけど、良かったら甲斐君も一緒に行かない?」 二人とも俺の先輩社員だが、いつも優しく、そして明るく話し掛けてきてくれる。 現に今もこうして、ラウンジで一人でコンビニのおにぎりを食べていた俺に、一緒にランチに行こうと誘ってくれているのだからやっぱり優しい。 ……しかし。 「……いえ。俺は結構です」 俺は二人から目を逸らし、自分でも引くくらい素っ気ない口調でそう返答した。 「うん、分かった。じゃあ私達はランチ行ってくるね」 そう言って、山村さん達は自動ドアを抜けて会社の外へ出て行った。 ああッ……山村さん、沢田さん、せっかくのご厚意を無にしてすみませんでした。 断るにしたって、もっと他に言い方あっただろ、俺! せめて目を合わせるべきだった……。 ……コミュ障過ぎて、自分が本当に嫌になる。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1177人が本棚に入れています
本棚に追加