くーん

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「……ありがと」 ひと呼吸吐いてから、俺はーー自分と母親の関係についてを、城矢に話し始めた。 俺は、物心ついた頃から母親と二人暮らしだった。 俺が産まれて間もない頃に両親は離婚したらしい。何があったのか詳しいことは知らないが、実の父親には会ったことがない。 母親は、昔からやたら過保護だった。小学生になっても、俺がどこへ行くにも必ずくっついてきたのだ。 それを煩わしく思ったことももちろんあったけれどーー母が俺のことを大事にしてくれている故の行動だと思っていたから、非難は出来なかった。それどころか、父の代わりに俺が母を守っていこうと強く思っていた。 ……でも実際のところ、母のその行動は、俺を大事にしていたからではなかった。 母は、俺がポメガだと周囲に知られることが怖く、監視していただけだったのだ。 それを知ったのは、俺が中学生になった頃。母が泥酔した時に、俺の前でそう漏らした。 『誰とも深くかかわっちゃ駄目よ。あなたは、普通の人間じゃないんだから』 子供の頃にショックを受けたあの言葉も、俺を守るための言葉なんかじゃなかった。俺がポメガだということを世間にバレないようにするための、ただの手段だったようだ。 まあ、母の言葉がなかったとしても俺は人と話すのが苦手で、いずれにしろコミュ障だったとは思うのだが……。 全てを知った俺は、溜まっていた文句を母に直接伝えたがーー驚くことに、それでも母の言動は変わらなかった。それまで通り、俺にとことん干渉し、時には束縛し、俺を極力誰ともかかわらせようもしなかった。 今さら友達の作り方も分からず、俺の友人は、ポメガの秘密を知るたった一人。その友人の存在すら、母には内緒にしていた。
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