1179人が本棚に入れています
本棚に追加
もふもふ
ある日のこと。
いつも通りデスクで仕事をしていると、山村さんに声を掛けられた。
「甲斐君。今の案件のスケジュール調整が入ったから、渡しておくね」
「あ、は、はい。ありがとうございます」
山村さんから書類を受け取ると、その際、彼女の指先に目がいった。
「どうかした? 甲斐君」
「あ、えっと……そのネイル、綺麗ですね……」
そう伝えると、山村さんが「え?」と目を丸くして驚いた。
「す、すみませんっ、変なこと言っちゃって!」
俺は慌てて謝る。
俺みたいな、普段ろくに話さない男から急に『ネイル綺麗ですね』なんて言われたら絶対気持ち悪かっただろうな……!
しかし山村さんは、驚いた表情の後ですぐにパッと明るい笑顔になりーー。
「ありがとう! 昨日、新調したんだけど凄い気に入ってるのー! 可愛いよね⁉︎」
「はっ、はい、可愛いです」
良かった。変なことを言ってしまったかと不安だったけれど、喜んでくれたようだ。
「でも、少しだけびっくり。甲斐君、今までそういうの言ってきたことなかったから」
「は、はは。そうですよね」
……俺も、実は自分でも少し驚いている。今までの俺だったら、さっきのような台詞は絶対に言っていなかったから。
……でも、城矢ならああ言うんじゃないかって思ったんだ。
城矢のようになりたいなんておこがましいかもしれないけれど……せめて今よりもう少し、人と話せるようになりたいと、最近は思い始めているから。
最初のコメントを投稿しよう!