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「ナナちゃん、大丈夫? 城矢だよ」
「城矢……?」
「扉、開けてもいい……?」
「だ、駄目。今は……」
「お願い。無事な姿を見たら、すぐに帰るから」
もしかしたらポメラニアンに変身してしまっているかもしれない。せめて人の姿でいることを確認してからじゃないと、帰れないと思った。
すると少し間をおいて、玄関の扉が内側からゆっくりと開いた。
扉の隙間から姿を見せてくれたナナちゃんは、ポメラニアンではなく人の姿だったけれどーー熱があるのは明らかなくらい真っ赤な顔で、呼吸もやはり乱れていた。
思っていた以上に、具合が悪そうだ。
「家の中、少し上がってもいい?」
「……すぐ帰る?」
「うん、すぐ帰る」
ナナちゃんは、戸惑いながらも俺を家の中へと促してくれた。
玄関で靴を脱ぎ、廊下を抜けて部屋に入ると、部屋の中はかなりごちゃっと荒れていた。
数日前、飲み会が終わった後にナナちゃんの家に来た時は、細かなところまで掃除が行き届いていて、ナナちゃんが綺麗好きなのが明らかだった。そもそも普段から、ナナちゃんの職場のデスク周りは誰よりもピカピカで整理整頓されている。
そんなナナちゃんの部屋がここまで荒れているということは、掃除も全く出来ないくらい、土曜日からずっと具合が悪かったのだろう。
「ナナちゃん、お腹は空いてる? ゼリーなら買ってきたけど、もし良かったら何か作ろうか?」
「……ゼリーもらってもいい?」
「うん! いっぱい買ってきたからーーあっ、ごめん! 何か踏んだ!」
急いで足元を浮かせ、踏んでしまったそれを拾い上げた。
それは、俺が土曜日にナナちゃんに貸した、あの上着だった。
踏んでしまったのがナナちゃんの私物じゃなくて良かったと一安心するも、ナナちゃんは「あっ、それは……!」と、何故か慌てている。
「ナナちゃん? どうした?」
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