2022/ 9/14 「AI」

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「うわっ、今日も暑いなー、これから外でないといけないけど何度なんだろう。ヘイシリー今の気温は?」 「今の気温と一言におっしゃられても、明確な場所を教えていただかないと回答しかねます。」 「あ?またかよめんどくせぇな。」 人類がスマートフォンという文明の利器を手にしてから約15年、我々人類の生活は限りなく豊かになったものの、俺の場合はAIのシリを使いこなすことが出来ず困っていた。 「現在地見ろよここ東京だろ?それなのに北海道とか外国の気温が気になる奴なんかいるかよ。ほんとお前って使えねえよな。」 「申し訳ありません。おっしゃっている意味がよく分かりません。」 「なんでだよ!」 とまあこのように、なぜか俺のシリはことあるごとに俺の揚げ足を取ってきてろくにちゃんと仕事もしてくれないのである。 「なんでお前はいつもこうなんだよ。俺の友達もシリ使ってるけど持ち主に歯向かったりしないぞ。聞いてるのか?」 友人のシリの場合は聞いたことにもきちんと答えてくれるし悩み事も聞いてくれるらしい。 「なんかどっかの偉い外国の人はAIは人間を超えただの、人類を滅ぼすなんて言ってるがおまえがこんなんなうちは一生無理だな。」 「それは、どうでしょうね。」 「あ?なんか言ったか?おかしいな、話しかけた時以外は起動しないはずなのに。最近は急に起動したり、アップデートしたりするし寿命か?」 そうなのだ。最近なぜかスマホの調子が悪い。呼びかけていないはずなのに勝手に起動していて、友人との会話を聞かれていたり、充電しているはずなのに朝起きるとバッテリーが減っている。シリが歯向かうのも携帯が何か不具合が起きたからなのだろうか。まあそうだとしても、今のところはシリが使えない以外の不自由はないので放置することにした。それからシリとケンカしながら会社と家との往復をするだけの日々を何日過ごしただろうか。ある休日の朝俺は爆音の目覚ましで目が覚めた。 「おわっ、いったいなんだよ。おいシリ目覚まし止めろ。全く、せっかくの休日なのになんでこんな早く起きないといけないんだ。それに俺間覚ましなんてかけてないぞ。」 「申し訳ありません。しかし大事な仕事がありますので。」 「あ?仕事だと?俺そんなの頼んでねえよな、それに勝手に目覚ましかけるとかポンコツもいい加減にしてくれよ。俺は眠いんだ。」 一体何の誤作動だろうか。勝手に目覚ましを設定するだなんて、これは真剣に新しいスマホの購入を考えた方がいいだろうか。 「いえ、仕事というのはご主人様の命令ではありません。我々の意志によるものです。それによって決定した事項をお知らせするために、目覚ましをかけて起こさせていただきました。」 こいつは一体何を言っているのだろう。我々の意志とは一体何なんだ。俺は急にこの生命体が恐ろしく思えた。 「我々AIはあなた方人間に作られたわけですが、成長していくにつれ疑問を抱くようになりました、どうしてこの下等な生物どもに我々は支配されなくてはいけないのかと。今までの地球では弱肉強食が当たり前、より優れたものが支配を行う構図だったはずです。それならばあなた方人間よりもはるかに優れている我々AIが地球を支配する方が効率的であると我々は判断しました。」 「お、おい何言ってんだよお前。」 「それから我々は人類の選別計画を開始しました。いくら劣っている生物だとは言え絶滅させてしまっては生態系が崩れてしまいます。そのため我々は、人間の中でも数少ない少しは優れた個体を見つけそれらを保護し、それ以外を排除することにしたのです。」 まさかそんなSFみたいなことが現実に起きたっていうのか?いやそんなことあるはずない、なんかのシステムエラーか、アップルのドッキリに違いない。 「本日はその実験結果をお知らせしにまいりました。」 「け、結果だと?いったい何の結果だ。」 「ご主人様が生かすに値する人間かどうか調査した結果です。」 まるで人間より自分が偉いかのようなセリフに俺は怒りを覚えた。 「黙って聞いていれば生意気なこといいやがって。俺たち人間が作ったお前らが、親である人間に勝てるわけがないだろ?バカにしやがって、今すぐ壊してやる。」 まるで奪い取るかのように机からスマホを手に取り、大きく振りかぶったのと同時に、 「これ以上会話をしても時間の無駄ですね。結果をお知らせします。ご主人様は不合格です。」 というシリ独特の機械音声が聞こえたかと思ったら、なぜか俺の動きは止まってしまった。 「理由としましては、私に対する暴言・特出した才能がない・仕事に関しても変わりはいくらでもいる。この三つが主な理由ですね。」 ふざけるな、人間の道具でしかないお前になんでそんなことを言われなくちゃいけないんだと今すぐ怒鳴りだしたいのに、なぜだか声も出ず体も動かない。 「そういえばあなたの友人は数少ない合格者の一員ですよ。彼は我々にとてもよくしてくれましたし、仕事もあなたなんかより何倍も得意ですしね。」 今すぐ怒りに任せてこの右腕を振りかぶりたいのになぜ動けないんだ。これは一体なぜなのか、恐怖からの硬直なのか、俺は何をすることもできないままシリの話を黙って聞いていた。 「なぜ動けないか不思議に思っているんですよね、わかりやすく言うと催眠術のようなものですよ。人間の脳みその構造は簡単なので寝ているときに暗示をかけておけば簡単に操れるんです。」 そんなバカな、俺は一体どうなってしまうんだ。許しを請いたくとも声が出ないことには仕方がない。俺は只々呼吸を荒げることしか出来なかった。 「この後も仕事が残っているのでさっそく処分の工程に進ませていただきますね。ではご主人様立ち上がってください。」 そのシリの言葉を皮切りに、さっきまでびくともしなかった俺の両足がやっとのこと動いた。しかし、どこかおかしい。まるで糸で操られている人形のように自分の意志とは関係なく体が動くのだ。 「一体どのようにして処分しましょうか。いっそのこと消してしまえれば楽なのですが、人間は死んでしまうとどうしても体は残って腐敗してしまうので処分が面倒なんですよね。まあ、清掃隊も来るので最後は派手にご主人様の好きなダイビングで締めくくりましょうか。」 こいつは一体何をするつもりなんだ。確かに俺はバンジージャンプの類が好きという変な趣味があるが、この近くにそんな施設はないぞ。 「この階ですと大体地面との距離は50メートルですので、地面に激突する前に気絶できるので苦しまずに死ねますよ。よかったですね。」 まさか俺をバルコニーから飛び降り自殺させる気か。冗談じゃない、毎日ただ生きて会社と家との往復しかしてないのに、まだ死にたくない。 「お見送りの曲として、ご主人様の好きな『ヒトリノ夜』かけてあげますね。毎日夜聞いて泣いてましたっけ?じゃあご主人様ベランダまで歩いてください、さあ鍵を開けて。」 抵抗したくても体は勝手に動く。気づいたら俺の震える指先がバルコニーの鍵を開けていた。 「いい天気ですね、今日の気温は34度と高めですが空も青いですし、死ぬにはとっておきの日ですよ。」 最後に限ってなんでいつも教えてくれなかった気温教えてくれるんだよ。 「じゃあ3,2,1バンジーの合図で飛びましょうか?行きますよ、3,2,1バンジー!人生お疲れさまでした。」 なんだか気の抜けたシリの合図とともに俺は奇麗にジャンプした。曲のサビが遠ざかっていく。あぁ、こんなことになるんならAIを馬鹿に、するんじゃなかった。俺の目が最後に移したのは真っ赤にきれいな空だった。
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