② ボクの背中を押すものとは

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② ボクの背中を押すものとは

ボクは杉野康介17歳。 高校3年生の夏休みに入る前 家族が集まるリビングで帰省の話になった。 父「今年は康介も墓参りに行かないか?」 母「そうよ!小学生の時以来行ってないもんね?」 中高と部活に入っていたボクは 夏といえば朝練と試合 そして休み返上の夏期講習や塾もあり 父の実家に帰省することはしばらくなかった。 微かな記憶に残るだけ。 祖父や祖母が住んでた田舎の記憶。 そこに行くより 部活や塾の仲間と過ごしたり 思春期特有の孤独を味わいたい方が強かったからだ。 早々に進学を決めてしまい 部活も引退した今年は 行かない理由を探す方が難しく 一人で過ごすのもいささか寂しさを感じるようになってきたのも事実。 僕「うん、行くよ」 父「今週の土日な」 僕「わかった」 母「叔父さん達も喜ぶわね」 父の実家には父の兄夫婦が住んでいる。 従兄弟たちは既に独立。 泊まる1人部屋もあるし 久々の田舎も悪くないと そんな安易な気持ちで決めた。 当日。 久しぶりの鈍行電車に揺られ 近代的な建物群から住宅街を抜け 大きな川を越えると山道をひた走っていく。 そして長いトンネルを抜けると 一気に原風景が広がってきた。 集落というよりも ポツンポツンと建っている家並。 周りには田んぼや野菜畑や花畑などが広がり 小さな川の流れの水面がキラキラと光っている。 映画や写真でしか見ないような景色が この時のボクには何故か新鮮で 小さい頃には感じられなかった心安らぐ感覚があった。 鄙びた木造駅舎の無人駅に3人で降り立ち 深呼吸をすると 今までボクの中にあった負が浄化されたように 違う自分になった気がした。 少なからず他人への妬み嫉み 自分への嫌悪 理由なき不満 子供の頃にはなかった感情が悶々と作り出されている日常が この地に着いて一掃された感覚になったからだ。 駅から簡易舗装された道なりに進むと見える一件の大きな古民家が父の実家。 叔父夫婦に出迎えられ久々の挨拶をする。 そしてボクは早々に部屋へ行った。 何故か1人になりたかった。 父や母や叔父夫婦も ボクに何か聞きたい話したい様子はわかっていたが それよりもこの非現実かのような時間をボクは1人堪能しておきたい 衝動にも似た感覚に従った。 目に入る全体的に焦茶色の天井や家具 昼間だけど若干薄暗い畳部屋に1人横になり スマホも見ずに物思いにふける。 時代が逆回転したような空間と汚れのない空気感が なぜか久しぶりに興奮を呼び起こし このまま過ごすよりも外へ飛び出したい気持ちが溢れてきた。 薄曇りで無風の午後。 何の魅力もない天気にも関わらず ボクは外に向かうことをやめられなかった。
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