④ 初めてじゃない感覚

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④ 初めてじゃない感覚

ボク「この先にある杉野の親戚」 来た道の方を指差して言った。 彼女「どうりで見たことないはず。私はこっちにある松本の家の親戚」 ボク「じゃあ地元の子じゃないんた?」 彼女「この時期はいるかな」 ボク「そうなんだ、ボクは6年ぶりかな」 彼女「私は小さい頃から毎年ここにも来てる」 ボク「へぇ〜ボクは小さい頃に祖父に連れられてきた時以来。1人では初めて」 彼女「それにしても今まで一度も会わなかったなんて不思議」 ボク「確かに。人が沢山いるわけじゃないし、一度くらいすれ違っててもいいよね」 彼女「じゃあこの先には行った事ない?」 彼女が来た道の方を指差した。 ボク「多分。記憶にはない」 彼女「行ってみない?」 ボク「日が落ちるまでには戻れる?」 彼女「小学生みたい」 ボク「そんなんじゃ…」 彼女「ごめん!そんなに遅くはならないから行こう」 ボク「わかった」 彼女「私、松本由梨」 ボク「杉野康介」 彼女「康介くんね。よろしく」 握手した。 ボクは何て呼べばいいか分からず、 出された手を軽く握る事しか出来なかった。 由梨が前を歩き、 ボクは後ろを着いていく。 微妙な距離を保ちながら、 まだ見ぬ景色に出会う事の想像を巡らせている。 由梨の姿はこの景色に馴染んでいて、 それが逆に不自然さを覚えるくらいだ。 会話もないまま歩いていると、 右側にある広場に一本の大木があり、 その側にはベンチがあった。 由梨「座ろうか」 ボク「うん」 眩しすぎる日差しさは、 直接的に浴びるにはあまりに刺激が強く、 木漏れ日が届くベンチに居るのがちょうどよかった。 並んで座る2人からは、 広大な水田と畦道、 その向こうに一軒の家が見える。 由梨「あれが私の父の実家」 ボク「そうだったんだ。知らなくてごめん」 由梨「謝ることある?笑」 ボク「何か言っちゃった」 由梨「気にしない」 ボク「でも不思議だな」 由梨「何が?」 ボク「こんな近くに同い年くらいの子がいる家があるなんて聞いた事なかった」 由梨「近いけど、ウチはこの時期に帰ってくるだけだから」 ボク「あそこには普段住んでないの?」 由梨「うん。別荘みたいな感じかな」 ボク「そういうことか」 由梨「納得?」 ボク「うん」 不思議な子だ。 同級生の女子みたいな化粧っ気もなく、 特別オシャレでもなく、 いくら田舎とはいえ1人で神社にお参りするような子。 でも自然に会話ができていながら、 それなのに彼女の背景はあまり気にならない。 興味がないわけではないが、 知る意味が感じられないと言った方がわかりやすい。 由梨「さっき、何をお願いしたの?」 ボク「何も。ただ手を合わせただけ。神社だから」 由梨「失礼じゃない?神社だからって!笑」 ボク「本当だもん」 由梨「本当に願い事ないの?」 ボク「ないな」 由梨「ウソウソ!」 ボク「本当だって!由梨は?何かお願いするの?」 由梨「毎年同じ事」 ボク「へぇ〜叶えたい夢があるんだ?」 由梨「今年は違う事にした」 ボク「受験とか?」 由梨「受験はしない」 ボク「じゃあ恋愛?」 由梨「そんなとこ」 普通の子だ。 ボク「それにしても、ここはいい場所だね」 由梨「気に入った?」 ボク「うん。何か違う世界に来たみたい」 由梨「私も毎年そう思う」 ボク「僕は初めて思った」 由梨「来て良かった?」 ボク「そうだね」 由梨はボクの顔を急に覗き込むように言う。 ドキドキとは違う、 当たり前のような、 いつも感じているような、 そんな気がしながらも、 女子の顔が身近にあると緊張した。 しかし、 唐突に由梨はこんな事を言った。 由梨「雨…降るかも」
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