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 ヒサオはサッカー部に所属しているが、とにかく弱い。  ヒサオが入部して以来勝ったことがないし、先輩も同じようなことを言っていたから、もうかなり長い間勝っていないのだろう。学校一番の古株である世界史教師、小峰先生に聞いたらサッカー部の存在すら忘れていたから、ひょっとしたら創部以来一度も勝ったことなどないのかもしれない。  「楽しめばなんくるなるさ」をモットーに、ちっともなんくるなっていない部活動だから、比較的簡単に休める。朝練など、よほどの物好きでないと参加しない。  ヒサオも日曜の朝練に参加したことがないが、それはサッカー部にしては珍しく、まっとうな理由がある。  学校が休みの日、ヒサオは朝から店番をしなくてはならない。高校のうちから経済活動に親しんでおくというのはタケオの教育方針だが、それにかこつけてタケオは昼頃まで寝ているから、立派なお題目がどこまで本気なのかは定かではない。  あまりにもこき使うので「労働基準法って知ってるか?」と聞いたら「てぃーだ商店街は治外法権だ」と返された。「米軍基地かよ」と言ったら「ここには何の予算も回ってこないけどなー。だからみんなカツカツさー」と物悲しいことを言われてしまった。  午前八時に店を開けるため、ヒサオは六時半に起床する。学校がある日よりも早い。七時になるとやってくる業者から納品する果物を受け取って陳列し、レジにお金を入れる。その間に納品したばかりの新鮮な果物を二、三拝借して朝食を済ませ、これで準備完了なのだが、一番の問題はここからだ。  シャッターを開けてまず目に飛び込んでくるのは、向かいの乾物屋ではなく、右隣で八百屋を営むアキコの顔だ。あまりにも近いので他は見えない。  「おはよう!」
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