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 言うが早いか、アキコはヒサオの胸倉をつかみ、店の外へと引きずり出す。その暴力的な風景をヒデシ、ユウジ、ケイスケの三人が楽しそうに眺めている。毎週のことなので、周囲の店主たちも優しく、ただしあくまで傍観者として見守っている。  中からシャッターを持ち上げられる場所は一か所しかないから、いつも同じ場所で開けるしかない。古いシャッターは重いから両手で支えなければならず無防備な態勢を晒し、つまりアキコはヒサオを捕まえたい放題なのだ。  もちろんヒサオも抵抗を試みたことはある。いつも胸倉をつかまれるので上半身裸でシャッターを開けたら、胸倉の次につかみやすかった鎖骨をつままれ、ものすごく痛かった上に裸で転がされたものだからとても恥ずかしかった。  油をしみこませたらどうだろうと、気持ち悪いのを我慢して油まみれの服を着てみたが、アキコには関係ないようで、ただ気持ち悪い気分になっただけだった。  開けてすぐ離れるというのも考えたが、万が一シャッターが下りてきてアキコに衝突したらと考えたら怖くてできない。アキコなら大丈夫と思うが、アキコが大丈夫な場合はヒサオが大丈夫ではなくなる。週末の攻防は今のところアキコの全勝だ。  道路に転がされたヒサオはヒデシに抱きかかえられ、無理やり円陣を組まされる。これもいつものことだ。体を起こしたヒサオが円陣に吸い込まれると、リーダー格のアキコが大声で叫んだ。  「っしゅおぃーい!」  ものすごく意味不明だ。それなのに周囲からは拍手が巻き起こり、ハイタッチが交わされる。これがヒサオの休日なのだが、思春期男子にとってこの日常は、なんだかとても恥ずかしいもののように感じていた。同級生に見られてはならないと感じながらも、てぃーだ商店街には同窓生も住んでいるから、どうせみんな知ってるんだろうな、とも思っている。  なにはともあれ元気よく始まったはいいけれど、近所の常連だけが頼りのしがない商店街だ。沖縄の朝はゆっくりなので、八時に開けたところでどうせ客はいない。それでも店を開けるのは、単純にみんなで喋りたいだけだからだ。店は開いているのに電気代がもったいないと電気も点けないから薄暗いままだが、それでも問題ないのがこの商店街だ。開店と同時にもみくちゃにされた後、とりあえずヒサオは暇を持て余しまくった表情で店先に突っ立っているのだった。  だがその日、「日曜の朝からこんな所で俺は何をしてるんだ」と思っていたヒサオが、「日曜の朝は素晴らしい。みんな早起きすればいい」と意見を転換させることになる。
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