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梅雨が明けた頃だ。席についてホームルームが始まると、担任の石川先生が言った。
「えー、ホームルームを始める前に、みんなにお知らせがあるぞ」
両手を腰に当てるのは石川先生の癖だ。そのままの態勢で教室をぐるりと見まわすと、大きな声で言った。
「今日はみんなに、新しい友達を紹介するぞ」
昔のテレビドラマを見て教職を志した石川先生は、いったいどのドラマの影響なのか、事あるごとに芝居くさいセリフを言う。もちろん演劇部の顧問だ。
普段ならスルーするところだが、転校生が来るとあって教室は大盛り上がりだ。そんな様子を見て、石川先生はご満悦である。
「うほん!みんな、静かにー!」
大根役者を思わせる、脚本でも読んだかのような咳払いでみんなを落ち着かせた。思春期男子たちは可憐な美少女を、思春期女子たちはイケメンを期待していたが、石川先生の声に導かれて教室に入ってきたのは、なんだかとても地味な女の子だった。
「大阪から引っ越してきた、高槻マイさんだ。みんな、よろしくな!」
大昔のドラマでも見ないような、不自然な爽やかさで紹介した。
「あ、あの・・・。高槻、マイです。よろしくお願いします」
聞きなれない関西特融のイントネーションに、クラス中が色めきだった。初めて生で聞く関西弁はとてもかわいくて、テレビで聞く関西弁よりも優しかった。
思わぬ盛り上がりに、マイは少し驚いたような表情を浮かべ、恥ずかしそうにはにかんだ。その仕草が、ヒサオにはなんだかすごく眩しく見えたのだった。
まず、ヒサオたちが知ったのは、関西人たちは誰もがハイテンションな訳ではないということ、「なんでやねん」は言うには言うが、頻度はさほど多くないということ。しかし疑問に思った時は「なんでやねん」以外は出てこないということ。
マイはクラスの中でもおとなしい方で、たまに誰かに軽くつっこむことはあってもボケることはない。でもお笑いは好きらしい。おそらく「ボケ」ではなく「ツッコミ」の人間なのだろう。大阪の人間はかならずボケかツッコミか、どちらかを担当している聞いたことがある。
最初こそ沖縄の言葉を学ぼうと頑張っていたが、いわゆるウチナーグチは沖縄人でも若い世代ははっきりとはわからないことを知ると、今度は標準語を喋るようになった。しかし、周りの女子たちが「関西弁かわいいさー!」と言い続けたものだから、本人も関西弁を話すようになった。バラエティー番組で芸人たちが使うようなキツいものではなく、柔らかな関西弁はクラスメートの心をつかんで離さなかった。五月に入る頃にはマイもすっかりクラスに馴染み、騒がしい女子たちの声に交じって、お淑やかな関西弁が混じっている。
決して目立つ生徒ではないし、クラスの中心という訳でもない。でも、マイの周りにはいつも女子たちが集まった。地味な顔つきだが、コロコロと笑う笑顔がなんともかわいい。
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