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 この頃、ヒサオにある変化が起きた。今年になってチワワになったと思っていた宮城さんがブルドッグに戻っていた。女子のリーダー格である我那覇さんはピットブルだし、親友の仲里さんはシェパードだ。社長令嬢の正木さんがボルゾイであることは昔から変わらないけれど、プードルもパピヨンも見当たらない。ソプラノボイスで歌っていた喜納さんはヘビメタ全開のデスボイスになり、「おはよう」の後についていたハートマークは取れて、ピーチ味からプレーンになった。  代わりにお淑やかな関西弁が天使の囁きとなり、右隣の席に座っているマイがやたらと視線に入るようになったと思ったら、首の左側が慢性的に痛み出した。しかし、これでも自分の変化の正体に気づかずに戸惑うのが思春期男子というもので、奇妙な違和感を抱えたまま過ごすことになった。そして、その変化に最初に気づいたのはアキコだった。  その日、ヒサオが店番をしていると、斜め向かいの店にいる客が目に入った。すらっとしたジーンズを履き、ティーシャツというシンプルな服装だが、なんだかとてもかわいらしい後ろ姿だ。  「あれ、お客さんは大阪の人?」  鮮魚店のミツルが甲高い声を出した。  「ええ。四月に引っ越してきたんです」  「へえ。テレビで聞く関西弁とはなんか違うねー」  「うふふ。よく言われます」  その可憐な声を聞いたヒサオは、思わずその後ろ姿に見入った。間違いなくマイだ。隣でアキコが呼ぶのも気づかず、ヒサオをその後ろ姿を見つめていた。  「ヒー!サー!オー!!」  脳内をその声が飛び回っている。我に返ったヒサオはびっくりしてアキコの方を見たが、今はそれどころではない。慌てて鮮魚店に目をやったが、すでにマイの姿はない。がっかりしたヒサオを、せめて一矢報いるためにアキコをにらみつけた。だが、アキコに睨み返されて、ヒサオは小さくなった。その時。  「仲間くん」  すぐ横で声がした。慌てて振り返ると、そこにはマイがいた。
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