彼女の天職

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「ふぇん。……は? 何がですか。何がなんですか。ちょ、と、とりあえず、お茶飲みましょうか」  慌ててお茶を出すと、飯田さんは「ありがとうございます」と丁寧に感謝して、丁寧にお茶を飲み、「あたたかい……」と丁寧に感想を述べた。  もしかしたら、とんでもなく大切に育てられたお嬢さまなのかもしれない。やっと社会に出てきたばかり、右も左も分からないとか。手入れの行き届いた黒髪が、そんな空気かもしだしてる。  お茶を飲んで一息つくと、飯田さんはボソボソと話しはじめた。 「私って、すぐ何でも持って帰っちゃうんです」 「はぁ」 「会社のペンとかはさみとか、あ、かわいいな、と思ったら、いつの間にか私のポケットに入ってるんです。自分でも気がつかないんですけど、ちょっと借りるだけ、のつもりが、返すのを忘れちゃうんです。仕事も、それで辞めさせられちゃったんです」 「え、辞めた? 何を盗っちゃったんですか」 「印鑑ケースです」 「印鑑ケース」 「かわいかったので、つい……。中身の印鑑ごと持って帰ってしまったので、私が休みの日におおごとになって、その……横領も疑われてしまって」 「ええ……」
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