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入り口の方を振り向くと、本当だ。コソコソ入ってきてすっと棚の影に入ったけど、あのサラサラの髪は、飯田さんだ。
飯田さんはこの日は、黒いスーツに黒カバンの黒ずくめだった。仕事探しでもしているのだろうか、辞めさせられたって言ってたし。
ぬぅぅ〜、っと棚から顔だけ出して凝視していると、さすがに気づかれた。
「ひっ」
「あ、どうぞ。買い物、続けてください。見てますんで」
「あ、え?」
「僕、あなたを見てますから。買い物、どうぞ」
「……はい」
飯田さんはおびえながら、ガチガチで文房具を取ったり戻したり。
店員に見られながら買い物なんて、楽しめないことは分かっている。しかし、万引きの常習犯に対してこれくらいの監視をしたって、文句は言われないだろう。僕はぴったりと飯田さんに張り付いた。厳密には、少し距離を取りつつ、飯田さんの動きをのぞき見た。
飯田さんは時々ふう、とかはあ、とかため息をつきながら、棚を順番に見ていった。僕を時々ちらちらと見てくるが、こっちは常にガン見である。
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