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パラレルワールド
<2.something †Blue †>
「それでは新郎による新婦のヘアメイクです。新郎は美容室で働かれていて、新婦もお客様として通っておられます。新郎の仕事ぶりを皆さんに見て頂きたいという新婦の要望により実現に至りました」
司会の声を聞きながら状況を把握する。テレビで見るよりは規模が小さいけど、白に囲まれた結婚式会場で、スポットライトを当てられ暑い。立っているオレの隣でイスに座った新婦は、にっこりオレの方を見つめている。新婦、さっきの女子高生じゃん。オレ、この人と結婚する訳?ほんでまた美容師?またこの人の髪の毛触んの?
客の視線を一斉に受けながらも、緊張よりも高揚が優っていた。そうだオレ、人前に出るのスキだったわ。高校で軽音入って皆の前に歌った時も楽しかったな。とりあえず良い感じに仕上げりゃいいんだろ、さっきもいけたし何とかなるだろ任せとけ。『それでは、るーじゅさん、お願いします』の声に合わせて髪に手を伸ばす。水のような透明感に溢れた青のドレスに合わせた、花びらの形を連ねたようなものを頭に固定していく。
頭より手が技術を覚えていて、言葉でどういえばいいかわからないが、手が”いい感じ”というゴールを目指して突き進んでくれた。柔らかく量が多い髪をしっかり形作って行く。自然と手が止まるタイミングで、司会者に目配せをした。
「華やかに仕上がりました!新郎によるお色直しヘアメイクでした」
後ろにいる黒子みたいな人の合図で新婦も立ち上がり、2人揃って新郎新婦が座る席に移動した。
「琉樹、ありがとう」
オレの方を見て笑ってくれる。うっとりした顔に既視感がある。たれ眉、たれ目、清潔感のある雰囲気。なんだっけこういうの、人魚みたいな形のドレス。夏の日陰みたいな爽やかさを醸し出していた。
ありがとう、という言葉に、彼女の血色良くなった表情に、オレは誰かに元気を与えることが好きだったな、と思い出した。
「似合ってるよ、りんかさん」
彼女の名前がすっと出てきた。オレの言葉に恥ずかしそうに、にやっと頬を染め頷く彼女を可愛く思った。
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