タイムリープ

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タイムリープ

<3.†Purple† 2007.FEB> 「5才児、藤原先生」 おっさんの声に周りがざわめく。また場面が変わった、走馬灯か?夢か? 狭い事務所のような部屋で、大きな机を囲んで大人が詰めて詰めて座っている。密やべぇ、ソーシャルディスタンス取れよ。 お誕生日席に座るおっさんこと園長に皆視線を集めている。何か重大発表なんかな。 「4才児、白石先生」 さっきとは打って変わって、あー、とやっぱりねと妥当だな、と頷き、共感の声が広がる。先生と才児の言葉と、周りのジャージ姿から幼稚園か保育園に関係するもんかと推測される。 「3才児、梶原先生、光永先生」 光永流樹(みつなが るーじゅ)がオレの名前だ。異世界転生、パラレルワールド転生、タイムリープ。今日のオレ、忙しすぎだろ。 これは異界じゃない、過去のオレだ。保育士一年目の冬の出来事だ、とはっきり思い出した。年で一番大きい行事発表会の後の来年度の人事発表。 続くクラスの発表と、来年度もよろしく!と激励の言葉で場はお開きになった。 そう、かじ先生と同じクラスになったんだ。梶原先生。時々見てると、テキパキしていて、言わなあかん事はめっちゃ言って遊ぶときはめっちゃテンションあげて遊ぶ、メリハリが効いた人。 親睦会では、よく絡んでくれて話しやすい人だ。女ばかりの職場で馴染めるように配慮したか適当だったか”みっつ”のあだ名を付けてくれた。 「みっつ、よろしくなー!」 とドン!とオレの肩を叩いて通り過ぎていく。 「かじ先生、どうしよ」 かじ先生に寄っていくのはりんかさん、こと、藤原先生。2人共同期がいなくて入社1年違いで仲が良いんだった。 「5才なんて自信ないよ……」 藤原先生は今年一緒に組んだ先生で、保育に自分なりのこだわりを持った人だ。自分の想いが強い割に指示を出すのは下手で察してタイプだったから、初めはどうすりゃいいか全っ然わからなかったが、慣れてくるうちに補助ポイント、正しくはやっても嫌がられないポイントがわかってきた。自分でなんでもやろうとして要領良いタイプじゃなかったから、行事が多い5歳いけるんか他人事ながら心配だ。 「大丈夫!ふじやったら大丈夫って園長が選んでくれてんから」 「そうかなぁ……。でも運動会の鼓笛隊とか発表会の合奏の指導とか自信ないよ……」 「皆はじめはできへんって!でも1人で出来ないことも頼ったらええねん!きっとふじが上手いこと人頼って仕事するための試練やで」 「そっかぁ、試練、かぁ」 「完璧な担任なんかならんでいい。周りに力を借りながら着実にやらなあかんこと、こなしていけばいい。あ、ほら、今年で辞める5才の原田先生とかに話聞いてみたらいいんちゃう?あの人も初5才やったやろ?」 「本当だ!聞いてくる!」 廊下を歩いていく原田先生を指差すかじ先生を見て、追いかけて走り出すふじ先生。 「うちが5才になった時には頼りにしてるでー」 とふじ先生の後ろから言葉をかける。 誰を下げるでもなく現実的でやる気が出る持っていき方、すげぇな。 体調か、目まぐるしく変わる世界にか、発表会後だからか身体が重く感じる。今日はもう帰ろう。
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