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私達の高校は進学校だ。全体として意識の高い人が多い。 でも、実際に有名大学への進学率を保ってくれているのは、進学クラスの中でも優秀なほうの人たち。つまり、中途半端とはいえ曲がりなりにも進学校、というやつだ。 この時間、学校に残っている生徒の殆どが、図書室か、職員室か、自分の教室にこもっている。 かりかりとペンを走らせる音が聞こえるほか、人の話し声は殆どない。誰かが話したとしても、たいがい遠慮がちに響いて、すぐに消えてしまう。 目的に沿って戦略を立て、実行する。出てきたエラーを修正し続ける。当たり前の作業を、当たり前にやろうとする人達が多い。 私みたいに無駄なことにかまけていると「どうしてそんな事をしているの?」と不思議そうな目を向けられる。 あるいは不穏分子のように扱われる。 無駄を求めてやってくるのは、先輩くらいだ。 「私が先輩の息抜きに付き合う理由なんてないですから」 「えー、お願い。付き合ってよ」 先輩のお願いが耳をくすぐる。 ぱちぱちとソーダ水のように弾ける気持ちを持て余して、私は、やっぱり、つっけんどんな態度をとってしまった。 無言で体を捻る。ピアノの上に置いたペットボトルに手を伸ばす。 先輩の手がペットボトルをひょいっと取り上げた。 「ありがとうございます」 中途半端に手を伸ばしたまま、渡されるのを待つ。 ペットボトルが私の指先を掠めた。楽しそうに笑う気配が、背中を通して直に伝わってくる。 「ちょ、え、あの」
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