22人が本棚に入れています
本棚に追加
私は息が詰まった。
おじさんの吐く息は酒臭くて、どうしたらいいかわからなかった。
うまく反応できずにいる私に、おじさんはなおも「ちゃんと人の目ぇ見て話す癖つけな」「女の子は可愛げがなかったらあかん」などとのたまい、気持ちの悪い笑みを浮かべてきた。
元々出席したくなかった集まりで、どうしてこんな理不尽な思いをしなくてはならないのだろう。
一刻も早く、この場を抜け出したかった。
無視していれば終わるだろうか。でも、母が嬉しそうにしている。この場を壊したくない。
誰か、助けて。誰か。
心の中に浮かんだのは、櫻子先輩だった。
櫻子先輩なら、何て言うだろう。
──いい加減にしてください。
気付けば口をひらいていた。
おじさんが、私を見て、はあ? と顔をしかめた。
──家のことなら、少しはできます!
呆気に取られたおじさんが、次の瞬間、ぷっと吹き出した。
──そらそうやろ、おかあさん、夜勤多いねんから。あんたが頑張らんで、誰が家のことやるねんな
さっき、花嫁修業がどうこう言った口で、この人は何を言っているのか。呆気に取られた隙に、おじさんはまた、今の子はええなぁ、昔より便利になってるねんからできて当たり前やで、等々、一方的にまくしたて始めた。
──おれらの時代は今と違って大変やったんやで
──自分がつらい想いをしたからといって、相手にもそれを求めるのは間違ってると思います
──うわー、可愛げがない
おじさんは止まらない。
最初から私の言い分なんか聞く気がないのだ、と分かった時、唐突に恥ずかしくなった。
どうして櫻子先輩の真似なんかしちゃったんだろう。
私は櫻子先輩ではないのに。
最初のコメントを投稿しよう!