22人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、先輩にしてもらうばかりで、なにも、返せてないのに」
言った瞬間、自分の手の甲に、何かが落ちてきた。自分の涙だった。
最悪だ。
人の優しさに甘えて、泣いて。
私は、目標を成し遂げられないだけではなく、自分の気持ちさえ思うようにできない。
「無駄なことばっかりしてて、必要なこと、いっこもちゃんとできなくて」
次の瞬間、先輩が私を優しく抱き寄せた。手の甲に落ちるはずだった涙が、頬をつたって斜めに流れる。
「疲れちゃうの」
「え?」
「親とか先生が言う『無駄』なことしないようにスケジュール組んじゃうとね、ずっと頑張り続けなきゃいけないでしょう。そういうのはすごく疲れちゃうの。だから、私にとって亜香里の歌を聞きにくるのは、とても大事なことだったの」
あんまり他人にわかってもらえないけどね、と切なそうに笑っている。
「え、えと」
櫻子先輩は、将来必要なもののために、今必要なものを諦めたりしない人だ。うまく両立する道を探している。結果、それこそが本当に将来必要なスキルにつながる。多分、そういうことが言いたいんだ。
「わかります、あ、その」
わかる、と言った瞬間、恥ずかしくなった。私の歌を聞きに来るのが必要と言い切ってくれた先輩に対して、「わかります」なんて。
思考がみるみるうちに取っ散らかる。
結果、口から出てきたのは、下手な例えだった。
「例えば、やりたい部活とやらなきゃいけない勉強を両立するとか、そういう話ですよね?」
間があった。
怖い。ああだめだ。全然だめ。
なんで、私は、いつも、やろうと思ったことと、実際やったことの差が残念な方向に大きいんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!