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「私、先輩にしてもらうばかりで、なにも、返せてないのに」 言った瞬間、自分の手の甲に、何かが落ちてきた。自分の涙だった。 最悪だ。 人の優しさに甘えて、泣いて。 私は、目標を成し遂げられないだけではなく、自分の気持ちさえ思うようにできない。 「無駄なことばっかりしてて、必要なこと、いっこもちゃんとできなくて」 次の瞬間、先輩が私を優しく抱き寄せた。手の甲に落ちるはずだった涙が、頬をつたって斜めに流れる。 「疲れちゃうの」 「え?」 「親とか先生が言う『無駄』なことしないようにスケジュール組んじゃうとね、ずっと頑張り続けなきゃいけないでしょう。そういうのはすごく疲れちゃうの。だから、私にとって亜香里の歌を聞きにくるのは、とても大事なことだったの」 あんまり他人にわかってもらえないけどね、と切なそうに笑っている。 「え、えと」 櫻子先輩は、将来必要なもののために、今必要なものを諦めたりしない人だ。うまく両立する道を探している。結果、それこそが本当に将来必要なスキルにつながる。多分、そういうことが言いたいんだ。 「わかります、あ、その」 わかる、と言った瞬間、恥ずかしくなった。私の歌を聞きに来るのが必要と言い切ってくれた先輩に対して、「わかります」なんて。 思考がみるみるうちに取っ散らかる。 結果、口から出てきたのは、下手な例えだった。 「例えば、やりたい部活とやらなきゃいけない勉強を両立するとか、そういう話ですよね?」 間があった。 怖い。ああだめだ。全然だめ。 なんで、私は、いつも、やろうと思ったことと、実際やったことの差が残念な方向に大きいんだろう。
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