宝石の欠片を君に

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「なんでハスばっかり撮ってるの?」 「えへへ。写真のコンテストで毎年『みなもに咲く花』っていうテーマがあるんだよ。それに応募し続けて落選してるってわけ。入選するのは主に花火の写真だね。湖面に映った雄大な花火の残像。それにもとても心動かされるのは確かだ。だけど僕はハスにこだわってしまうんだ。地味だよね」 「いいえ、素敵」 「緻密なハスの花びらをみても古くから歴史のあるハスのストーリーを考えても魅力が写真の中に収まりきらないよ」 「ハスのストーリー?」 「仏教に関連があるんだよね」 「泥の中でも咲く花。つまり俗世に生きていても大輪の花を咲かせる悟りの植物。なんて堅苦しいけどさ」 「情緒があるのね」 「地味だけど、だけど美しい。道路のタンポポみたいな感じさ。僕は美しいものに惹かれる。美は他の嫌なことを忘れさせてくれるからね」 「それ、私も同じかも」 「ん?」 ニコニコ顔で凪君は止まった。 まつ毛が長くて女のコにも見える横顔が、きれいだなとふと思ってしまった。 「美しいものでつらいことを忘れようとする癖、同じかも」 「そうなんだ。だからクラックビー玉」 「そう」 「何かあったの?」 「あのね、私すごくときめく人がいたの。胸が苦しくてその人の目ヂカラにやられたっていうか。すごく好きな感じだったの。その瞬間恋かなって思ったの。でもその人は私を子どもとしか見ていないしあろうことか、酷いイタズラまで仕掛けてきたの。その人の正体は見えているんだけど、ショックすぎて。本当のその人を見たくないの。わかる?」 「難しいけど。要するに遊ばれたのかな?」 「ううん、片思いよ。でもそうね、大切にはされなかった」 「じゃあそれは恋じゃなかったんだよ」 「そうなのかな」 「今苦しい?」 「うん、とても」 「ビー玉貸して」 凪君はブルーのビー玉をもらうと空に透かして言った。 「これ、1つ僕に頂戴。家でひび割れさせてくるから」 「いいよ」 「さっきれねちゃんにあった時僕は誕生日のいちごのホールケーキをまるまるもらえたみたいな嬉しさを感じたんだよ。ね、ここでまた会おうよ」 凪君はブルーのビー玉にちゅっと口づけした。 その仕草は優雅で、ルージュのCMにでている女優さんみたいだった。 「またね。近いうちに」
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